契約・重要事項説明の基本
中古マンションを購入する際、売買契約と重要事項説明は宅地建物取引業法に基づき適正に行われる必要があります。契約手続きの基本を理解し、トラブルを防止することが重要です。
(1) 宅建業法35条に基づく説明義務
不動産の売買契約では、宅地建物取引業法第35条により、宅地建物取引士が買主に対して重要事項説明を行う義務があります。
国土交通省の「宅地建物取引業法に基づく重要事項説明」によれば、以下の流れで実施されます。
重要事項説明の流れ:
- 事前交付: 重要事項説明書を契約締結前に買主に交付
- 対面説明: 宅地建物取引士が記名押印した書面を用いて説明
- 質疑応答: 買主からの質問に回答し、疑問点を解消
- 署名押印: 買主が内容を理解した上で署名押印
重要事項説明は契約締結前に必ず実施されるため、不明点があれば遠慮せず質問することが大切です。
(2) 契約の流れと注意点
中古マンションの購入契約は、以下の流れで進行します。
- 物件見学: 内覧で物件の状態を確認
- 購入申込: 買付証明書(購入申込書)を提出
- 住宅ローン事前審査: 金融機関に事前審査を申し込み
- 重要事項説明: 契約締結前に宅地建物取引士が説明
- 売買契約締結: 売買契約書の締結と手付金の支払(売買価格の5-10%程度)
- 住宅ローン本審査: 金融機関に本審査を申し込み(通常1-2週間)
- 残代金決済・引渡し: 残代金の支払と同時に物件の引渡し、所有権移転登記を実施
契約締結後は、住宅ローン特約による解除を除き、原則として解約できません。契約前に十分な検討が必要です。
主要チェックポイント
(1) 物件状況の確認
中古マンションの購入では、物件の現況を正確に把握することが重要です。
確認すべき項目:
- 専有部分の状況: 室内の設備・内装の状態、リフォーム履歴
- 共用部分の状況: エントランス・廊下・階段の管理状態
- 管理費・修繕積立金: 月額費用と滞納の有無
- 修繕積立金の積立状況: 大規模修繕に備えた積立額
- 大規模修繕の履歴: 過去の大規模修繕の実施時期と内容
- 長期修繕計画: 今後の修繕計画と修繕積立金の増額予定
これらの情報は重要事項説明書および管理組合の総会議事録で確認できます。
(2) 契約条件の精査
売買契約書では、以下の条件を慎重に確認します。
重要な契約条件:
- 売買代金: 土地・建物の按分価格(税務申告に影響)
- 手付金: 通常は売買価格の5-10%程度
- 引渡し時期: 契約締結後1-3ヶ月以内が一般的
- 住宅ローン特約: ローン審査が不承認の場合の契約解除条項
- 契約不適合責任: 引渡し後の不具合に対する売主の責任範囲
- 付帯設備: エアコン・照明器具等、引渡し時に付帯する設備
特に住宅ローン特約は、ローン審査が不承認の場合に手付金が全額返還される重要な条項です。
重要事項説明書の確認ポイント
(1) 権利関係の確認
重要事項説明書では、物件の権利関係を詳細に記載します。
権利関係の確認項目:
- 登記簿の内容: 所有権・抵当権・地役権等の権利関係
- 所有権の移転時期: 残代金決済時に所有権が移転することを確認
- 抵当権の抹消: 売主の住宅ローンが残っている場合、決済時に抵当権を抹消
- 管理費等の滞納: 前所有者の管理費・修繕積立金の滞納がないか確認
前所有者に管理費等の滞納がある場合、新所有者がその支払義務を承継する可能性があるため、重要事項説明で必ず開示されます。
(2) 法令制限の確認
中古マンションの重要事項説明では、建築基準法・都市計画法等の法令制限を記載します。
主な法令制限:
- 都市計画法: 用途地域(第一種住居地域・第二種住居地域等)
- 建築基準法: 建ぺい率・容積率の制限、耐震基準適合の有無
- その他の制限: 文化財保護法・土砂災害防止法・津波災害警戒区域等
旧耐震基準と新耐震基準:
- 旧耐震基準: 1981年5月31日以前に建築確認を受けた建物
- 新耐震基準: 1981年6月1日以降に建築確認を受けた建物
旧耐震基準の物件は、住宅ローン控除の適用に耐震基準適合証明書が必要となる場合があります。
資金計画とローン審査
(1) ローンの種類と選択
中古マンション購入時には、以下の住宅ローンを検討します。
住宅ローンの種類:
固定金利型:
- 借入期間中、金利が一定
- 返済額が変わらないため、資金計画が立てやすい
- 変動金利より金利が高め
変動金利型:
- 市場金利に応じて金利が変動
- 固定金利より金利が低め
- 金利上昇リスクがある
固定金利選択型:
- 一定期間(3年・5年・10年等)は固定金利、期間終了後に再度金利タイプを選択
- 固定金利と変動金利の中間的な選択肢
金融機関により金利・手数料・審査基準が異なるため、複数の金融機関で比較検討することが推奨されます。
(2) 審査基準の理解
住宅ローンの審査では、以下の基準が重視されます。
主な審査項目:
- 年収: 安定した収入があるか
- 返済比率: 年収に対する年間返済額の割合(通常25-35%以内)
- 勤続年数: 勤続3年以上が望ましい
- 信用情報: 過去の返済遅延・債務整理の有無
- 物件の担保価値: 融資額が物件価値の範囲内か
- 建物の築年数: 築年数が古い物件は融資期間が短くなる場合あり
中古マンションの場合、築年数が古いと融資期間が短くなったり、融資額が制限されたりするケースがあります。事前審査を受け、借入可能額を確認しておくことが重要です。
税務処理と優遇措置
(1) 不動産取得税の計算
中古マンションを購入した場合、不動産取得税が課税されます。
不動産取得税の計算:
- 不動産取得税 = 固定資産税評価額 × 3%(2027年3月31日まで)
- 土地・建物それぞれに課税
軽減措置(一定の要件を満たす場合):
- 建物: 固定資産税評価額から一定額を控除(築年数により異なる)
- 土地: 評価額の2分の1を課税標準とする軽減措置
不動産取得税は、購入後6ヶ月から1年程度で都道府県から納税通知書が送付されます。
(2) 税制優遇の活用
中古マンション購入時には、以下の税制優遇措置を活用できる可能性があります。
住宅ローン控除(住宅借入金等特別控除):
国税庁の「住宅ローン控除の基礎知識」によれば、以下の要件を満たす場合に適用されます。
主な要件:
- 自己居住用であること
- 床面積が50㎡以上(2023年以前は40㎡以上の特例あり)
- 住宅ローンの返済期間が10年以上
- 所得が2,000万円以下(年によって異なる場合あり)
- 中古住宅の場合、以下のいずれかを満たすこと:
- 1982年1月1日以降に建築された住宅(新耐震基準)
- 耐震基準適合証明書を取得した住宅
- 既存住宅売買瑕疵保険に加入した住宅
控除額:
- 年末のローン残高の0.7%を所得税から控除(最長13年間)
- 中古住宅の場合、借入限度額は2,000万円(認定住宅等を除く)
- 所得税から控除しきれない場合は、住民税からも一部控除
旧耐震基準の物件を購入する場合は、耐震基準適合証明書の取得または既存住宅売買瑕疵保険への加入を検討します。
契約後のトラブル防止策
(1) 契約不適合責任の理解
2020年4月の民法改正により、瑕疵担保責任は「契約不適合責任」に変更されました。
契約不適合責任とは:
- 引き渡された目的物が種類・品質・数量に関して契約内容に適合しない場合、売主が負う責任
- 買主は、追完請求・代金減額請求・損害賠償請求・契約解除を選択可能
- 買主が不適合を知った時から1年以内に通知が必要
国土交通省の「不動産売買契約の手引き」によれば、中古物件では特約により責任範囲を限定することが一般的とされています。
中古マンションの特約:
- 責任期間の短縮: 引渡し後3ヶ月以内(法定は1年)
- 一部免責: 経年劣化による不具合は免責
- 設備の現況: 付帯設備表で設備の状態を確認
契約書で契約不適合責任の期間・範囲を必ず確認してください。
(2) 引渡し後の対応
引渡し後にトラブルが発生した場合の対応方法を理解しておきます。
設備の不具合が発覚した場合:
- 付帯設備表の確認: 引渡し時の設備状態と現況を比較
- 売主・仲介業者への連絡: 不具合を速やかに報告
- 責任範囲の確認: 契約書で契約不適合責任の範囲を確認
- 対応協議: 修繕・代金減額・損害賠償等の対応を協議
既存住宅売買瑕疵保険の活用:
国土交通省の「既存住宅売買瑕疵保険」によれば、中古住宅の検査と保証がセットになった保険制度があります。
- 購入後に隠れた瑕疵が見つかった場合の補修費用を補償
- 保険加入には、建築士等による検査に合格する必要あり
- 保険期間は通常1年または5年
既存住宅売買瑕疵保険に加入している物件は、一定の品質が確保されており、住宅ローン控除の要件も満たします。
まとめ
中古マンション購入時の契約・重要事項説明では、宅地建物取引業法に基づく説明義務を理解し、物件状況の確認、契約条件の精査、権利関係・法令制限の確認を慎重に行うことが重要です。
特に中古マンションでは、管理費・修繕積立金の状況、大規模修繕の履歴と今後の計画、管理規約の内容(ペット・楽器・民泊等の制限)を重点的に確認します。
資金計画では、住宅ローンの種類と金利タイプを比較検討し、事前審査を受けて借入可能額を確認しておくことが推奨されます。
税務処理では、住宅ローン控除の適用要件を理解し、旧耐震基準の物件を購入する場合は耐震基準適合証明書の取得または既存住宅売買瑕疵保険への加入を検討します。
契約不適合責任については、中古物件では免責・期間短縮の特約が設定されることが一般的ですが、契約書で期間・範囲を必ず確認し、引渡し後の不具合に備えて既存住宅売買瑕疵保険の活用も検討することが大切です。
よくある質問
Q1: 重要事項説明では何を確認すべきですか?
A: 重要事項説明では、物件の権利関係(登記簿の内容・抵当権の有無・所有権移転時期等)、法令制限(用途地域・建ぺい率・容積率・耐震基準適合の有無等)、インフラ状況(水道・ガス・電気の整備状況)、契約条件(売買代金・手付金・引渡し時期・契約不適合責任の範囲等)を重点的に確認します。中古マンションの場合は、管理費・修繕積立金の月額と滞納の有無、修繕積立金の積立状況、大規模修繕の履歴と今後の計画、管理規約の内容(ペット・楽器・民泊等の制限)も重要です。不明点があれば、契約締結前に宅地建物取引士に質問し、疑問を解消することが重要です。
Q2: 手付金はいつ返還されますか?
A: 手付金の返還は、契約解除の理由により異なります。手付解除期限内に買主都合で契約を解除する場合、買主は手付金を放棄することで契約を解除できます(手付金は返還されません)。一方、売主都合で契約を解除する場合、売主は受領した手付金の倍額を買主に返還する必要があります(手付倍返し)。住宅ローン特約により契約が解除される場合(ローン審査が不承認の場合)、手付金は全額返還されます。手付解除期限を過ぎた後は、手付放棄・倍返しによる契約解除はできず、違約金が発生します。違約金の額は売買価格の10-20%程度が一般的です。
Q3: 契約不適合責任とは何ですか?
A: 契約不適合責任とは、引き渡された目的物が種類・品質・数量に関して契約内容に適合しない場合に、売主が買主に対して負う責任です。2020年4月の民法改正により、従来の瑕疵担保責任から変更されました。買主は、追完請求(修補・代替物の引渡し・不足分の引渡し)、代金減額請求、損害賠償請求、契約解除を選択できます。中古マンションでは、特約により責任期間を短縮(引渡し後3ヶ月程度)したり、経年劣化による不具合を免責したりすることが一般的です。契約書で期間・範囲を必ず確認し、引渡し後に不具合が見つかった場合は、期間内に売主に通知することが重要です。既存住宅売買瑕疵保険に加入している物件は、保険により補修費用が補償されるため、安心して購入できます。