中古戸建て売却の契約・重要事項説明|基礎知識と実務ポイント

公開日: 2025/10/19

中古戸建て売却契約の全体の流れ

中古戸建ての売却では、売買契約書と重要事項説明書という2つの重要な書面を中心に手続きが進みます。初めて売却する方にとっては、契約内容や法律用語が難しく感じられるかもしれませんが、基本的な流れと確認ポイントを押さえておけば安心です。この記事では、中古戸建て売却時の契約・重要事項説明について、基礎から実務上の注意点まで解説します。

この記事のポイント

  • 重要事項説明書は契約前に宅地建物取引士が行う書面説明で、売主も内容確認が重要
  • 売買契約書には売買価格・手付金・引渡し時期・契約不適合責任などの必須事項を記載
  • 契約不適合責任は2020年民法改正で瑕疵担保責任から変更、特約で免責範囲を設定可能
  • 中古戸建て特有の論点として境界確定・建物状況調査・設備の付帯範囲が重要
  • 手付解除・ローン特約・契約違反による解除のそれぞれで手付金の扱いが異なる

(1) 契約締結から引渡しまでのステップ

中古戸建ての売却は、以下のような流れで進みます。

ステップ 内容 タイミング
1. 媒介契約 不動産会社と売却の委任契約を締結 売却開始時
2. 重要事項説明 宅地建物取引士が買主に書面で説明 契約日の数日前~当日
3. 売買契約締結 売主・買主が契約書に署名・押印 重要事項説明後
4. 手付金受領 売買代金の一部(5~10%)を受取 契約時
5. 買主のローン審査 買主が住宅ローン本審査を受ける 契約後1~2週間
6. 残代金決済・引渡し 残金受領と物件の鍵引渡し 契約後1~3ヶ月

重要事項説明は宅地建物取引業法第35条に基づき、契約締結前に行うことが法律で定められています(国土交通省「宅地建物取引業法に基づく重要事項説明」)。

(2) 売主が準備すべき書類

契約時に売主が準備すべき主な書類は以下の通りです。

  • 登記済権利証(または登記識別情報)
  • 固定資産税納税通知書
  • 建築確認済証・検査済証(紛失時は台帳記載事項証明書で代替可能)
  • 測量図・境界確認書(境界確定済みの場合)
  • 物件状況報告書(売主が記入)
  • 設備表(エアコン・照明などの有無と状態を記載)
  • マンション管理規約(マンションの場合)
  • 身分証明書・印鑑証明書

建築確認済証や検査済証を紛失している場合、役所の建築指導課で「台帳記載事項証明書」を取得することで代替できます。

売買契約書の基本構成と確認事項

(1) 契約書の必須記載事項

売買契約書には以下の事項が必ず記載されます。

  • 売買物件の表示: 所在地・地番・地目・地積・建物構造・床面積
  • 売買代金: 総額と内訳(手付金・残代金)
  • 手付金の額と支払時期: 一般的に売買代金の5~10%
  • 残代金の支払時期: 通常は契約から1~3ヶ月後
  • 引渡し時期: 残代金決済と同時が一般的
  • 公租公課の負担: 固定資産税の日割り計算方法
  • 契約不適合責任の範囲と期間: 後述
  • 特約事項: ローン特約・境界確定の有無など

国土交通省の「不動産売買契約の手引き」では、契約書の基本的な記載事項と注意点が解説されています。

(2) 特約条項の確認

特約条項は契約の個別事情を反映する重要な項目です。以下のような特約が設定されることがあります。

  • ローン特約: 買主の住宅ローン審査が不承認の場合、契約を白紙解除できる
  • 境界確定の特約: 引渡しまでに境界確定測量を行う旨を明記
  • 設備の免責特約: エアコン・給湯器などの設備について、引渡し後の故障は免責
  • 契約不適合責任の制限: 築年数の古い物件で責任範囲を限定

特約は契約書の条項よりも優先されるため、内容をしっかり確認しましょう。

(3) 引渡し時期と条件

引渡しは通常、残代金決済と同時に行います。引渡し条件として以下の項目を確認します。

  • 建物内の残置物は全て撤去済みであること
  • 鍵一式を買主に引き渡すこと
  • 設備表記載の付帯設備が正常に作動すること
  • 公共料金(電気・ガス・水道)の清算が完了していること

引渡し前に買主と一緒に立会い確認を行い、双方が納得した上で引渡しとなります。

重要事項説明書で確認すべきポイント

(1) 宅建業法による説明義務

重要事項説明は宅地建物取引業法第35条に基づき、宅地建物取引士が買主に対して行う書面での説明です。売主への説明義務は法律上ありませんが、記載内容に誤りがあれば契約後のトラブルにつながるため、売主も内容を確認することが重要です。

(2) 法定記載事項の内容

重要事項説明書には以下の事項が記載されます。

項目 内容
登記記録の内容 所有権・抵当権等の権利関係
法令上の制限 都市計画法・建築基準法による制限
私道負担 私道の持分や通行権
供給施設 電気・ガス・水道の状況
未完成物件の場合 完成予定時期・工事完了後の形状
契約不適合責任 責任の範囲と期間
金銭の貸借 住宅ローンのあっせん有無

(3) 売主として確認すべき事項

売主として特に確認すべき項目は以下です。

  • 境界の確定状況: 隣地所有者との境界が確定しているか
  • 接道義務: 建築基準法上の道路に2m以上接しているか
  • 建築確認の有無: 増築・改築を行った際の建築確認済証の有無
  • 告知事項: 雨漏り・シロアリ被害・近隣トラブル等の告知すべき事項

告知義務違反は契約後のトラブルや損害賠償請求の原因となるため、知りうる限りの情報を正直に伝えることが重要です。

契約不適合責任とは何か

(1) 2020年民法改正による変更点

2020年の民法改正により、従来の「瑕疵担保責任」が「契約不適合責任」に変更されました。契約不適合責任とは、引き渡した物件が種類・品質・数量に関して契約内容に適合しない場合に、売主が買主に対して負う責任です。

旧瑕疵担保責任との主な違いは以下の通りです。

項目 旧・瑕疵担保責任 新・契約不適合責任
対象 隠れた瑕疵 契約内容との不適合
売主の主観 善意・無過失が必要 主観不要
買主の権利 損害賠償・解除 追完請求・代金減額・損害賠償・解除

(2) 売主の責任範囲

契約不適合責任の具体例として、以下のようなケースがあります。

  • 雨漏りや水漏れが引渡し後に発覚
  • シロアリ被害が引渡し後に判明
  • 設備(給湯器・エアコン等)の故障
  • 建物の構造上の欠陥

中古戸建ての場合、引渡しから3ヶ月程度の責任期間を設定するのが一般的です。国土交通省の「中古住宅の契約不適合責任」でも、中古物件における責任範囲について解説されています。

(3) 免責事項の設定

特約により、以下のように責任範囲を限定することが可能です。

  • 設備の免責: エアコン・給湯器などの設備について、引渡し後7日間のみ責任を負う
  • 現状有姿: 物件を現状のまま引き渡し、契約不適合責任を負わない(築古物件で多い)
  • 告知事項の明示: 事前に告知した不具合については責任を負わない

ただし、売主が知りながら告知しなかった不具合については、免責特約があっても責任を問われる可能性があります。

手付金と残代金の実務

(1) 手付金の性質と金額

手付金は契約締結時に買主が売主に支払う金銭で、以下の3つの性質があります。

  1. 証約手付: 契約成立の証拠
  2. 解約手付: 一定期間内であれば契約を解除できる
  3. 違約手付: 契約違反時の違約金の一部に充当

手付金の額は売買代金の5~10%が一般的です。例えば、売買代金3,000万円の場合、手付金は150~300万円程度となります。

(2) 手付解除の条件

手付解除とは、契約後一定期間内であれば、以下の条件で契約を解除できる制度です。

  • 買主からの解除: 手付金を放棄(支払った手付金が返還されない)
  • 売主からの解除: 手付金の倍額を買主に返還(手付倍返し)

手付解除ができる期間は「相手方が契約の履行に着手するまで」と定められており、通常は契約から1~2週間程度です。

(3) 残代金決済のタイミング

残代金は、売買代金から手付金を差し引いた金額です。決済は通常、以下の流れで行います。

  1. 買主の住宅ローン本審査が承認される
  2. 決済日を調整(契約から1~3ヶ月後が一般的)
  3. 決済日に銀行等で売主・買主・不動産会社・司法書士が立会い
  4. 買主が残代金を支払い
  5. 売主が登記に必要な書類を司法書士に渡す
  6. 所有権移転登記を申請
  7. 物件の鍵を引き渡す

決済と引渡しは同日に行うのが原則です。

中古戸建て特有の確認事項

(1) 境界確定の重要性

境界確定とは、隣地所有者との土地の境界線を測量により明確にすることです。法律上は境界確定が必須ではありませんが、実務上はほぼ必須となっています。

境界確定を行うメリットは以下です。

  • 隣地とのトラブル防止
  • 買主への情報提供義務を果たせる
  • 売買契約がスムーズに進む

測量費用は30~50万円程度で、売主負担が一般的です。境界が確定していない場合、買主から価格交渉や契約条件の変更を求められることがあります。

(2) 建物状況調査(インスペクション)

建物状況調査(インスペクション)は、建築士等の専門家が建物の構造や雨漏りの有無などを調査する制度です。2018年4月の宅建業法改正により、媒介契約時にインスペクション業者のあっせん有無を確認することが義務化されました。

インスペクションを実施するメリット:

  • 買主への安心材料となり売却がスムーズになる
  • 既存住宅売買瑕疵保険に加入できる(国土交通省「既存住宅売買瑕疵保険」)
  • 契約不適合責任のリスクを軽減

費用は5~10万円程度で、売主負担とするか買主負担とするかは交渉次第です。

(3) 設備の付帯範囲と告知義務

中古戸建てでは、以下の設備について付帯の有無を明確にする必要があります。

設備 付帯の可否
エアコン 通常は付帯(故障時の免責特約が多い)
照明器具 居室の照明は付帯、シャンデリア等は交渉
カーテンレール 通常は付帯
物置・車庫 通常は付帯(撤去希望時は事前協議)
庭木・庭石 交渉により決定

設備表に記載された設備の状態(良好・不具合あり・故障)を正確に記入し、買主に伝えることが重要です。告知義務違反は契約後のトラブルや損害賠償請求の原因となります。

まとめ

中古戸建て売却における契約・重要事項説明では、以下のポイントを押さえておきましょう。

  • 重要事項説明書は契約前に宅地建物取引士が行う書面説明で、売主も内容確認が重要
  • 売買契約書には売買価格・手付金・引渡し時期・契約不適合責任などを明記
  • 契約不適合責任は特約で範囲を限定できるが、告知義務違反は免責対象外
  • 境界確定・建物状況調査は法律上必須ではないが実務上ほぼ必須
  • 設備の付帯範囲と状態を明確にし、告知すべき事項は正直に伝える

不動産会社や司法書士など専門家のサポートを受けながら、安心して売却手続きを進めることをお勧めします。

よくある質問(FAQ)

Q1. 重要事項説明書は売主も確認する必要がありますか?

A. 宅地建物取引業法上、重要事項説明は買主への説明義務ですが、売主も内容を確認することが重要です。記載内容に誤りがあれば契約後のトラブルの原因となります。特に境界確定の状況や設備の状態など、売主が情報提供すべき事項が正確に記載されているか確認しましょう。不動産会社から事前に重要事項説明書の写しをもらい、内容を確認することをお勧めします。

Q2. 契約不適合責任はどこまで売主の責任になりますか?

A. 契約不適合責任は、引き渡した物件が契約内容に適合しない場合に売主が負う責任です。2020年の民法改正により瑕疵担保責任から変更されました。雨漏り・シロアリ被害・設備故障・建物の構造上の欠陥などが対象となります。中古戸建ての場合、引渡しから3ヶ月程度の責任期間を設定するのが一般的で、特約により免責範囲を設定することも可能です。ただし、売主が知りながら告知しなかった不具合は免責の対象外です。

Q3. 手付金はどのような場合に返還が必要ですか?

A. 手付金の扱いは解除の理由により異なります。手付解除の場合、売主都合であれば手付金の倍額を買主に返還(倍返し)、買主都合であれば手付金を放棄(返還不要)となります。契約違反による解除の場合は違約金の対象となり、手付金が違約金の一部に充当されます。買主の住宅ローン審査が不承認でローン特約により解除された場合は、手付金は全額返還されます。

Q4. 中古戸建て売却で境界確定は必須ですか?

A. 法律上は境界確定が必須ではありませんが、実務上はほぼ必須です。境界が確定していないと、隣地とのトラブルが懸念され、買主が購入をためらう原因となります。測量費用は30~50万円程度で売主負担が一般的です。境界が確定していない場合、買主から価格交渉や契約条件の変更を求められることがあります。買主への情報提供義務の観点からも、境界確定を行うことを強く推奨します。

よくある質問

Q1重要事項説明書は売主も確認する必要がありますか?

A1宅地建物取引業法上、重要事項説明は買主への説明義務ですが、売主も内容を確認することが重要です。記載内容に誤りがあれば契約後のトラブルの原因となります。特に境界確定の状況や設備の状態など、売主が情報提供すべき事項が正確に記載されているか確認しましょう。不動産会社から事前に重要事項説明書の写しをもらい、内容を確認することをお勧めします。

Q2契約不適合責任はどこまで売主の責任になりますか?

A2契約不適合責任は、引き渡した物件が契約内容に適合しない場合に売主が負う責任です。2020年の民法改正により瑕疵担保責任から変更されました。雨漏り・シロアリ被害・設備故障・建物の構造上の欠陥などが対象となります。中古戸建ての場合、引渡しから3ヶ月程度の責任期間を設定するのが一般的で、特約により免責範囲を設定することも可能です。ただし、売主が知りながら告知しなかった不具合は免責の対象外です。

Q3手付金はどのような場合に返還が必要ですか?

A3手付金の扱いは解除の理由により異なります。手付解除の場合、売主都合であれば手付金の倍額を買主に返還(倍返し)、買主都合であれば手付金を放棄(返還不要)となります。契約違反による解除の場合は違約金の対象となり、手付金が違約金の一部に充当されます。買主の住宅ローン審査が不承認でローン特約により解除された場合は、手付金は全額返還されます。

Q4中古戸建て売却で境界確定は必須ですか?

A4法律上は境界確定が必須ではありませんが、実務上はほぼ必須です。境界が確定していないと、隣地とのトラブルが懸念され、買主が購入をためらう原因となります。測量費用は30~50万円程度で売主負担が一般的です。境界が確定していない場合、買主から価格交渉や契約条件の変更を求められることがあります。買主への情報提供義務の観点からも、境界確定を行うことを強く推奨します。

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