買い替え中古戸建て購入の契約:知っておくべき重要事項
買い替えで中古戸建てを購入する場合、旧居の売却と新居の購入を同時進行させる必要があります。特に重要なのが「買い替え特約」で、旧居が売れなかった場合に購入契約を解除できる条項です。中古戸建ては新築とは異なり、契約不適合責任の期間が短く、建物状況調査(インスペクション)による事前確認が重要です。
本記事のポイント
- 買い替え特約により旧居が売れない場合のリスクをヘッジできる
- 中古戸建ての契約不適合責任は新築より短期間(3ヶ月〜1年程度が一般的)
- インスペクション実施でシロアリ・雨漏り等の重大な瑕疵を事前発見できる
- 境界が確定していない物件は将来トラブルのリスクがある
- 住宅ローン特約と買い替え特約を併用することで二重のリスクヘッジが可能
買い替え中古戸建て購入の契約フロー
(1) 契約から引渡しまでの標準的な流れ
買い替えで中古戸建てを購入する場合の標準的な契約フローは以下の通りです。
フェーズ | 期間 | 主な内容 |
---|---|---|
物件探し・内覧 | 1-3ヶ月 | 希望条件に合う物件を探す |
購入申込 | 1週間 | 購入意思を書面で表明 |
重要事項説明 | 1日 | 宅建士から物件の重要事項を説明 |
売買契約締結 | 1日 | 契約書への調印、手付金の支払い |
住宅ローン申込 | 1-2週間 | 金融機関への本審査 |
決済・引渡し | 1ヶ月後 | 残代金支払い、所有権移転登記、引渡し |
買い替え特約を設定する場合: 旧居の売却期限を契約書に明記し、期限内に売却できなければ無条件で契約解除できるようにします。
(2) 買い替え時の旧居売却と新居購入のタイミング
買い替えでは、旧居の売却と新居の購入のタイミングを調整する必要があります。
売却先行:
- メリット: 売却代金が確定し、購入予算が明確になる
- デメリット: 仮住まいが必要になる
購入先行:
- メリット: 引越しがスムーズで仮住まい不要
- デメリット: 旧居が売れないリスク、ダブルローンの負担
同時進行(買い替え特約活用):
- メリット: 仮住まい不要、売却不成立のリスクをヘッジ
- デメリット: 売主が買い替え特約を嫌がる可能性がある
(3) 必要書類と事前準備
契約前に以下の書類を準備しましょう。
買主が準備する書類:
- 本人確認書類(運転免許証、パスポートなど)
- 印鑑証明書(発行から3ヶ月以内)
- 実印
- 住民票
- 収入証明書(源泉徴収票、確定申告書など)
- 手付金(現金または振込)
売主から受け取る書類:
- 重要事項説明書
- 売買契約書
- 物件状況報告書
- 建物状況調査報告書(インスペクション実施時)
重要事項説明で確認すべき中古戸建て特有の事項
(1) 宅建業法に基づく重要事項説明の記載事項
宅建業法35条に基づき、重要事項説明書には以下の事項が記載されます。
基本事項:
- 物件の表示(所在地、地番、地目、地積、建物面積など)
- 登記された権利(所有権、抵当権など)
- 法令上の制限(都市計画法、建築基準法など)
- 私道負担の有無
- 飲用水・電気・ガスの供給施設
- 契約不適合責任の内容
中古戸建て特有の記載事項:
- 建物状況調査の実施有無と結果
- 既存住宅売買瑕疵保険の加入有無
- 耐震診断の実施有無と結果
- アスベスト使用調査の実施有無と結果
(2) 中古戸建ての確認ポイント(境界・設備・権利関係)
境界確定の有無
境界が確定していない場合、隣地との紛争リスクがあります。境界確定測量を実施しているか、確定測量図があるか確認しましょう。
設備の状況
キッチン、バス、給湯器、エアコンなどの設備の動作状況と築年数を確認します。中古戸建ては設備が古く、購入後すぐに交換が必要になる場合があります。
権利関係
登記簿上の所有者が売主と一致するか、抵当権が設定されていないか(決済時に抹消予定か)を確認します。
(3) 物件状況報告書と告知事項
物件状況報告書は、売主が物件の状況を買主に報告する書類です。
告知事項の例:
- 雨漏り・シロアリ被害の有無
- 給排水管の故障・漏水の有無
- 近隣トラブルの有無
- 騒音・振動・臭気の発生状況
- 心理的瑕疵(自殺・事故死等)の有無
これらの告知事項に虚偽があった場合、契約不適合責任を追及できます。
買い替え特約の活用と契約リスクの回避
(1) 買い替え特約とは何か(設定条件・期限)
買い替え特約は、旧居が一定期間内に売却できなかった場合、購入契約を無条件で解除できる特約です。
特約の内容: 「買主は、〇年〇月〇日までに現住居(住所:〇〇)を売却できなかった場合、本契約を解除することができる。この場合、買主は手付金の返還を受け、違約金の支払い義務を負わない。」
期限の設定: 通常、契約締結から1〜3ヶ月程度の期限を設定します。売主にとっては売却の不確実性が高まるため、長すぎる期限は嫌がられます。
売主の対応: 買い替え特約を嫌がる売主も多いため、以下の方法でリスクを軽減します。
- 旧居の売却活動が進んでいることを証明(査定書、媒介契約書)
- 旧居の売却価格を合理的な範囲に設定
- 期限を短めに設定(1〜2ヶ月)
(2) 住宅ローン特約との併用
住宅ローン特約は、住宅ローンが承認されなかった場合に無条件で契約を解除できる特約です。
住宅ローン特約の内容: 「買主は、〇年〇月〇日までに住宅ローン(借入額〇〇万円)の承認を得られなかった場合、本契約を解除することができる。この場合、買主は手付金の返還を受け、違約金の支払い義務を負わない。」
買い替え特約との併用: 買い替え特約と住宅ローン特約を併用することで、二重のリスクヘッジが可能です。
- 旧居が売れない → 買い替え特約で解除
- 住宅ローンが通らない → 住宅ローン特約で解除
(3) 旧居が売れない場合のリスクヘッジ
買い替え特約がない場合、旧居が売れなくても購入契約を履行する必要があります。
リスク:
- ダブルローン(旧居と新居の両方のローン返済)
- 手付金の放棄(契約を解除する場合)
- 違約金の支払い(契約解除が手付解除期限を過ぎた場合)
リスクヘッジの方法:
- 買い替え特約を必ず設定する
- つなぎ融資を活用する(旧居の売却代金が入るまでの短期融資)
- 住み替えローンを利用する(旧居のローン残債を新居のローンに上乗せ)
中古戸建ての契約不適合責任と建物状況調査
(1) 契約不適合責任の内容と期間
契約不適合責任は、引き渡された物件が契約内容に適合しない場合、売主が買主に対して負う責任です。
買主の権利:
- 修補請求: 不適合の修補を請求できる
- 代金減額請求: 修補に代えて代金の減額を請求できる
- 損害賠償請求: 不適合により損害が生じた場合、賠償を請求できる
- 契約解除: 重大な不適合の場合、契約を解除できる
責任期間:
- 新築住宅: 構造耐力・雨水侵入は10年間(品確法)
- 中古住宅(個人間売買): 引渡しから3ヶ月〜1年程度が一般的(契約で定める)
- 中古住宅(業者売買): 引渡しから2年以上(宅建業法)
免責特約: 個人間売買の場合、契約不適合責任を免責とする特約も可能ですが、売主が知っていて告知しなかった瑕疵は免責されません。
(2) 建物状況調査(インスペクション)の重要性
建物状況調査(インスペクション)は、既存住宅の基礎・外壁等の劣化状況を専門家が調査することです。
調査内容:
- 構造耐力上主要な部分(基礎、柱、梁、外壁など)
- 雨水の浸入を防止する部分(屋根、外壁、開口部など)
- 給排水管の劣化状況
費用: 5〜10万円程度
実施のメリット:
- 購入前に建物の問題点を把握できる
- 価格交渉の材料になる
- 既存住宅売買瑕疵保険に加入できる(保険料は買主負担)
- 契約後のトラブルを防止できる
実施タイミング: 購入申込後、売買契約前に実施するのが一般的です。費用は買主負担が多いですが、売主に負担を求めることも可能です。
(3) 瑕疵発見時の買主の権利(修補請求・代金減額)
契約不適合が発見された場合、買主は以下の権利を行使できます。
修補請求
売主に不適合の修補を請求できます。例えば、雨漏りが発見された場合、屋根の修理を請求できます。
代金減額請求
売主が修補に応じない場合、または修補が不可能な場合、代金の減額を請求できます。減額額は、不適合がない場合の価格との差額です。
権利行使の期限
契約不適合を知った時から1年以内に売主に通知する必要があります。通知を怠ると、権利を行使できなくなります。
売買契約書の記載内容と特約条項
(1) 売買契約書の標準的な記載事項
国土交通省のひな型によると、売買契約書には以下の事項を記載します。
必須記載事項:
- 売買物件の表示
- 売買代金の総額と内訳(土地・建物)
- 手付金の額と支払時期
- 残代金の額と支払時期
- 引渡し時期
- 所有権移転時期
- 契約不適合責任の内容と期間
- 公租公課の分担
- 手付解除の期限
- 違約金の額
(2) 手付金の額と解除条件
手付金は、売買契約締結時に買主が売主に支払う金銭です。
手付金の額: 売買代金の5〜10%が一般的
手付解除:
- 買主からの解除: 手付金を放棄して契約を解除できる
- 売主からの解除: 手付金の倍額を返還して契約を解除できる
手付解除の期限: 契約書に「〇年〇月〇日まで」または「相手方が契約の履行に着手するまで」と記載されます。期限後の解除は違約金が発生します。
(3) 境界確定と隣地トラブル防止
境界が確定していない物件は、将来トラブルのリスクがあります。
境界確定のメリット:
- 隣地との紛争リスクを回避
- 建て替え時に境界トラブルがない
- 将来売却時に買主が安心できる
境界確定測量の費用: 30〜80万円程度(隣地の数や測量の複雑さによる)
契約書への記載: 境界が未確定の場合、「売主は、引渡しまでに境界確定測量を実施し、確定測量図を買主に交付する」などの特約を設けることが望ましいです。
契約後の手続きと引渡しまでの流れ
(1) 住宅ローン申込みと本審査
売買契約締結後、速やかに住宅ローンの本審査を申し込みます。
本審査の必要書類:
- 売買契約書の写し
- 重要事項説明書の写し
- 登記事項証明書
- 収入証明書(源泉徴収票、確定申告書など)
- 本人確認書類
- 印鑑証明書
審査期間: 1〜2週間程度
住宅ローン特約の期限: 本審査の結果が出る前に住宅ローン特約の期限が切れないよう、期限を長めに設定します(契約から1ヶ月程度)。
(2) 所有権移転登記の準備
決済日に所有権移転登記を行うため、司法書士に依頼します。
司法書士への依頼内容:
- 所有権移転登記
- 抵当権設定登記(住宅ローン利用時)
- 抵当権抹消登記(売主のローン残債がある場合)
登記費用: 5〜15万円程度(登録免許税、司法書士報酬)
(3) 引渡し前の最終確認
決済・引渡し当日の前に、物件の最終確認を行います。
確認事項:
- 設備の動作確認(キッチン、バス、給湯器、エアコンなど)
- 付帯設備の有無(照明、カーテンレールなど)
- 建物の損傷・汚損の有無
- 境界標の確認
問題があれば決済前に売主に修補を求めるか、代金減額を交渉します。
まとめ
買い替えで中古戸建てを購入する場合、買い替え特約により旧居が売れない場合のリスクをヘッジすることが重要です。中古戸建ての契約不適合責任は新築より短期間(3ヶ月〜1年程度が一般的)のため、インスペクション実施でシロアリ・雨漏り等の重大な瑕疵を事前発見しましょう。
境界が確定していない物件は将来トラブルのリスクがあるため、契約前に境界確定測量の実施を売主に求めることが望ましいです。住宅ローン特約と買い替え特約を併用することで、二重のリスクヘッジが可能になります。
重要事項説明では、物件状況報告書の告知事項(雨漏り・シロアリ・近隣トラブル等)を重点的に確認し、不明点があれば宅建士に質問しましょう。契約不適合を発見した場合は、知った時から1年以内に売主に通知する必要があります。
よくある質問
Q1. 買い替え特約はどのような場合に設定すべきですか?
A. 旧居の売却が購入の前提条件となる場合に設定すべきです。
買い替え特約は、旧居が一定期間内に売却できなかった場合、購入契約を無条件で解除できる特約です。以下のケースで設定を検討しましょう。
- 旧居の売却代金を新居の購入資金に充てる場合
- ダブルローンの負担を避けたい場合
- 旧居の売却見込みが不確実な場合
期限の設定: 通常、契約締結から1〜3ヶ月程度の期限を設定します。ただし、売主にとっては売却の不確実性が高まるため、買い替え特約を嫌がるケースもあります。旧居の売却活動が進んでいることを証明(査定書、媒介契約書)し、期限を短めに設定(1〜2ヶ月)することで、売主の理解を得やすくなります。
Q2. 中古戸建ての契約不適合責任は新築と何が違いますか?
A. 新築は10年間の瑕疵担保義務がありますが、中古は個人間売買の場合、責任期間を短縮または免責とする特約が一般的です。
新築住宅: 品確法により、構造耐力・雨水侵入に関する瑕疵について10年間の保証義務があります。
中古住宅:
- 個人間売買: 引渡しから3ヶ月〜1年程度が一般的(契約で定める)。免責特約も可能ですが、売主が知っていて告知しなかった瑕疵は免責されません。
- 業者売買: 引渡しから2年以上の責任期間が必要(宅建業法)
中古住宅は責任期間が短いため、インスペクション実施で事前確認が重要です。費用は5〜10万円程度ですが、購入後のトラブル防止に有効です。
Q3. 建物状況調査(インスペクション)は必須ですか?費用はどのくらいですか?
A. 法的義務ではありませんが、中古戸建て購入では強く推奨します。費用は5〜10万円程度です。
インスペクションは、既存住宅の基礎・外壁等の劣化状況を専門家が調査することです。
調査内容:
- 構造耐力上主要な部分(基礎、柱、梁、外壁など)
- 雨水の浸入を防止する部分(屋根、外壁、開口部など)
- 給排水管の劣化状況
実施のメリット:
- 購入前にシロアリ・雨漏り等の重大な瑕疵を発見できる
- 価格交渉の材料になる
- 既存住宅売買瑕疵保険に加入できる
- 契約後のトラブルを防止できる
実施タイミング: 購入申込後、売買契約前に実施するのが一般的です。費用は買主負担が多いですが、売主に負担を求めることも可能です。
Q4. 境界が確定していない物件を購入するリスクは何ですか?
A. 隣地との紛争リスク、建て替え時のトラブル、将来売却時の障害となる可能性があります。
境界が確定していない物件のリスク:
- 隣地との紛争: 境界線をめぐって隣地所有者とトラブルになる
- 建て替え時のトラブル: 建築確認申請時に境界確定が必要になる
- 将来売却時の障害: 買主が不安視して売却しにくくなる
- 越境物のリスク: 隣地の塀や樹木が敷地内に越境している場合がある
リスク回避の方法: 契約前に境界確定測量の実施を売主に求めることが望ましいです。費用は30〜80万円程度(隣地の数や測量の複雑さによる)で、通常は売主負担です。契約書に「売主は、引渡しまでに境界確定測量を実施し、確定測量図を買主に交付する」などの特約を設けることで、リスクを回避できます。