中古マンション買い替え時の譲渡所得税|基礎と実務完全版

公開日: 2025/10/16

買い替えに伴う中古マンション売却時の譲渡所得税とは

中古マンションを売却して新しい住まいに買い替える際、譲渡所得税が発生する可能性があります。しかし、一定の要件を満たせば「買い替え特例」や「3000万円特別控除」などの税制優遇を受けられる場合があります。

買い替え時の譲渡所得税で押さえておきたいポイントは以下の通りです。

  • 買い替え特例を使えば譲渡所得税の課税を繰り延べられる可能性がある
  • 3000万円特別控除と買い替え特例は選択適用(併用不可)
  • 売却損が出た場合は損益通算・繰越控除で税負担を軽減できる可能性がある
  • 取得費の計算では減価償却後の金額を使用する必要がある
  • 住宅ローン控除との併用には制限がある

本記事では、国税庁の公式情報を基に、買い替え時の譲渡所得税の基礎知識から各種特例の選択方法まで詳しく解説します。

1. 買い替えに伴う中古マンション売却と譲渡所得税の基本

(1) 譲渡所得税の計算方法

譲渡所得税は以下の計算式で求められます。

譲渡所得 = 譲渡価額 - (取得費 + 譲渡費用)
課税譲渡所得 = 譲渡所得 - 特別控除
譲渡所得税 = 課税譲渡所得 × 税率
  • 譲渡価額: マンションの売却価格
  • 取得費: マンションの購入価格(減価償却後)+ 購入時の諸費用
  • 譲渡費用: 売却時にかかった仲介手数料、登記費用など
  • 特別控除: 3000万円特別控除などの適用がある場合

(2) 取得費の計算(減価償却後)

中古マンションの取得費を計算する際は、建物部分について減価償却を考慮する必要があります。

建物の減価償却計算式:

減価償却費 = 建物取得価額 × 0.9 × 償却率 × 経過年数
取得費(建物) = 建物取得価額 - 減価償却費

非事業用マンション(居住用)の償却率は以下の通りです。

構造 耐用年数 償却率
鉄筋コンクリート造(RC造) 70年 0.015
鉄骨鉄筋コンクリート造(SRC造) 70年 0.015

計算例:

  • 建物取得価額: 2,000万円
  • 所有期間: 10年
  • 減価償却費: 2,000万円 × 0.9 × 0.015 × 10年 = 270万円
  • 取得費(建物): 2,000万円 - 270万円 = 1,730万円

土地部分は減価償却の対象外のため、購入時の価格がそのまま取得費となります。

(3) 所有期間と税率

譲渡所得税の税率は、マンションの所有期間によって異なります。所有期間の判定は、譲渡した年の1月1日時点で行います。

区分 所有期間 所得税率 住民税率 合計税率
短期譲渡所得 5年以下 30% 9% 39%
長期譲渡所得 5年超 15% 5% 20%

※復興特別所得税(所得税額の2.1%)が別途加算されます。

重要: 所有期間の判定は「譲渡した年の1月1日時点」で行うため、実際の所有期間とは異なる場合があります。例えば、2015年3月に取得したマンションを2020年12月に売却した場合、実際の所有期間は約5年9ヶ月ですが、判定日(2020年1月1日)時点では5年未満となり、短期譲渡所得として扱われます。

2. 買い替え特例(課税繰延べ)とは

(1) 特例の仕組みと適用要件

買い替え特例(特定のマイホームを買い替えた場合の課税繰延べ)は、一定の要件を満たす場合に譲渡所得税の課税を次回売却時まで繰り延べられる制度です。国税庁の「特定のマイホームを買い替えたときの特例」によれば、以下の要件があります。

売却物件の要件:

  • 自分が住んでいる居住用財産であること
  • 居住期間が10年以上であること
  • 譲渡した年の1月1日時点で所有期間が10年を超えていること

新居の要件:

  • 床面積が50㎡以上であること
  • 建物の床面積が50㎡以上500㎡以下であること
  • 取得価格が1億円以下であること

(2) 新居の要件(面積・価格)

新居の要件について、より詳しく見ていきましょう。

面積要件:

  • 床面積50㎡以上: 登記簿面積で判定
  • 上限500㎡以下: 豪華住宅を除外する目的

価格要件:

  • 取得価格1億円以下: 土地・建物の合計額
  • 消費税込みの価格で判定

(3) 買い替え時期の制限

買い替え特例の適用には、売却と新居取得のタイミングに関する制限があります。

  • 売却した年の前年1月1日から売却した年の翌年12月31日までの間に新居を取得すること
  • 新居を取得した年の翌年12月31日までに居住を開始すること

タイミング例:

  • 2024年10月に旧居を売却した場合
  • 新居の取得期限: 2023年1月1日〜2025年12月31日
  • 居住開始期限: 取得した年の翌年12月31日まで

3. 3000万円特別控除との選択適用

(1) 特別控除の要件

3000万円特別控除(居住用財産を譲渡した場合の特別控除)は、マイホームを売却した際に譲渡所得から最高3,000万円を控除できる制度です。国税庁の「マイホームを売ったときの特例」によれば、主な要件は以下の通りです。

  • 自分が住んでいる居住用財産であること
  • 住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却すること
  • 前年・前々年にこの特例を受けていないこと

(2) 買い替え特例との比較

買い替え特例と3000万円特別控除は選択適用となり、併用できません。それぞれの特徴を比較してみましょう。

項目 買い替え特例 3000万円特別控除
効果 課税の繰延べ 譲渡所得から3000万円控除
所有期間要件 10年超 なし
居住期間要件 10年以上 なし(3年以内に売却)
新居の要件 あり(面積・価格制限) なし
住宅ローン控除との併用 不可 不可

(3) どちらを選ぶべきか

選択の判断基準は、主に以下の要素によって異なります。

3000万円特別控除が有利なケース:

  • 譲渡所得が3000万円以下の場合(税金がゼロになる)
  • 新居で住宅ローン控除を受けたい場合(買い替え特例は併用不可)
  • 将来の売却予定がない場合

買い替え特例が有利なケース:

  • 譲渡所得が3000万円を大きく超える場合
  • 所有期間・居住期間が10年以上ある場合
  • 将来の売却で損失が見込まれる場合(課税繰延べのメリット)

重要: どちらの特例を選ぶかは個別の状況によって異なるため、税理士への相談をおすすめします。

4. 売却損が出た場合の損益通算・繰越控除

(1) 損益通算の要件

買い替えで売却損が出た場合、一定の要件を満たせば他の所得と損益通算できる可能性があります。国税庁の「マイホームを買い換えた場合に譲渡損失が生じたとき」によれば、以下の要件があります。

  • 譲渡した年の1月1日時点で所有期間が5年を超えていること
  • 売却した年の前年1月1日から翌年12月31日までに新居を取得すること
  • 新居取得の翌年12月31日までに居住を開始すること
  • 新居について住宅ローン(返済期間10年以上)があること

(2) 繰越控除の仕組み

損益通算しても控除しきれなかった損失は、翌年以降3年間にわたって繰越控除できます。

適用例:

  • 売却損: 2,000万円
  • 給与所得: 800万円/年
控除額 残額
1年目 800万円 1,200万円
2年目 800万円 400万円
3年目 400万円 0円

(3) 住宅ローン控除との併用

譲渡損失の損益通算・繰越控除は、新居での住宅ローン控除と併用できる場合があります。ただし、以下の点に注意が必要です。

  • 住宅ローン控除の適用要件を満たしていること
  • 譲渡損失の損益通算で所得税がゼロになった場合、その年は住宅ローン控除の適用がない
  • 繰越控除期間中も住宅ローン控除は継続可能

5. 買い替え時の注意点とリスク

(1) 特例の併用制限

買い替えに関する各種特例には、以下のような併用制限があります。

併用不可の組み合わせ:

  • 買い替え特例 × 3000万円特別控除
  • 買い替え特例 × 住宅ローン控除(新居)
  • 3000万円特別控除 × 住宅ローン控除(新居)

併用可能な組み合わせ:

  • 譲渡損失の損益通算・繰越控除 × 住宅ローン控除(新居)

(2) 新居取得のタイミング

買い替え特例や譲渡損失の損益通算を適用する場合、新居取得のタイミングに制限があります。

  • 売却した年の前年1月1日から翌年12月31日まで
  • タイミングを誤ると特例が適用できない
  • 先行取得・同時取得・後行取得のいずれも可能

(3) 住宅ローン控除の適用制限

新居で住宅ローン控除を受けたい場合、以下の制限に注意が必要です。

  • 買い替え特例を使うと住宅ローン控除は適用不可
  • 3000万円特別控除を使っても住宅ローン控除は適用不可
  • 譲渡損失の損益通算・繰越控除なら併用可能

6. 買い替えをスムーズに進めるための手続き

(1) 必要な書類

買い替えに伴う税制優遇を受けるためには、確定申告時に以下の書類が必要になる場合があります。

基本書類:

  • 譲渡所得の内訳書
  • 売買契約書の写し(旧居・新居)
  • 登記事項証明書(旧居・新居)
  • 住民票の写し

特例適用時の追加書類:

  • 買い替え特例: 買換資産の明細書
  • 損益通算: 譲渡損失の金額の明細書、住宅借入金の残高証明書

(2) 確定申告の手続き

譲渡所得がある場合や特例を適用する場合は、売却した年の翌年2月16日〜3月15日に確定申告が必要です。

申告の流れ:

  1. 譲渡所得の計算(減価償却後の取得費を算出)
  2. 適用する特例の選択
  3. 必要書類の準備
  4. 確定申告書の作成・提出
  5. 納税または還付

(3) 税理士への相談

買い替えに伴う譲渡所得税の計算や特例の選択は複雑なため、以下の場合は税理士への相談をおすすめします。

  • 譲渡所得が高額な場合
  • 複数の特例から最適なものを選びたい場合
  • 減価償却の計算が複雑な場合
  • 将来の売却も視野に入れた長期的な判断が必要な場合

まとめ

中古マンションを買い替える際の譲渡所得税について解説しました。

買い替え時は「買い替え特例(課税繰延べ)」「3000万円特別控除」「譲渡損失の損益通算・繰越控除」など複数の選択肢があり、所有期間や譲渡所得の額、新居での住宅ローン控除の有無によって最適な選択が異なります。

特に重要なポイント:

  • 取得費の計算では減価償却後の金額を使用する
  • 所有期間の判定は「譲渡した年の1月1日時点」で行う
  • 各種特例には併用制限がある
  • 新居取得のタイミングに制限がある

買い替えの税金対策は個別の状況によって異なるため、具体的な判断は税理士に相談することをおすすめします。適切な特例を選択することで、税負担を大きく軽減できる可能性があります。

よくある質問

Q1中古マンションを買い替える場合、買い替え特例と3000万円特別控除のどちらがお得ですか?

A1譲渡所得の額、新居の価格、将来の売却予定により異なります。譲渡所得が3000万円以下なら3000万円特別控除で税金をゼロにできます。3000万円を超える場合、買い替え特例で課税を繰り延べることも選択肢になります。ただし両方の併用はできません。また、新居で住宅ローン控除を受けたい場合、買い替え特例や3000万円特別控除を使うと併用できないため、譲渡損失の損益通算を検討することになります。個別の状況によって最適な選択が異なるため、税理士への相談をおすすめします。

Q2買い替え特例の適用要件は何ですか?

A2売却物件については、居住期間が10年以上、譲渡した年の1月1日時点で所有期間が10年を超えていることが必要です。新居については、床面積が50㎡以上500㎡以下、取得価格が1億円以下であることが要件となります。また、売却した年の前年1月1日から翌年12月31日までの間に新居を取得し、取得した年の翌年12月31日までに居住を開始する必要があります。

Q3中古マンション売却で損失が出た場合、税金はどうなりますか?

A3居住用財産の譲渡損失は、一定の要件を満たせば他の所得(給与所得など)と損益通算できます。要件は、譲渡した年の1月1日時点で所有期間が5年を超えていること、新居を一定期間内に取得すること、新居について返済期間10年以上の住宅ローンがあることなどです。損益通算しても控除しきれない損失は、翌年以降3年間にわたって繰越控除できます。この制度は新居での住宅ローン控除と併用可能です。

Q4買い替え特例を使った後、新居を売却するときの税金はどうなりますか?

A4買い替え特例は課税を繰り延べる制度のため、新居を売却する際に旧居の譲渡益も含めて計算されます。具体的には、新居の取得費として旧居の取得費を引き継ぐため、新居を長期保有していても税負担が大きくなる可能性があります。例えば、旧居の取得費が1000万円、新居の購入価格が5000万円の場合、新居売却時の取得費は1000万円として計算されます。将来の売却も視野に入れて特例を選択することが重要です。

Q5買い替え時に住宅ローン控除は使えますか?

A5新居購入で住宅ローン控除を受ける場合、売却時に買い替え特例を使うと併用できません。また、3000万円特別控除を使った場合も住宅ローン控除との併用はできません。併用可能なのは、譲渡損失の損益通算・繰越控除を選択した場合のみです。ただし、譲渡損失の損益通算・繰越控除を適用するには、所有期間5年超などの要件を満たす必要があります。状況に応じて最適な選択を行うことが重要です。

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