離婚時の中古戸建て購入と譲渡所得税|財産分与・住宅ローン控除完全ガイド

公開日: 2025/10/12

離婚時の中古戸建て購入と譲渡所得税の基本

離婚に伴う財産分与や離婚後の新生活で中古戸建ての購入を検討される方にとって、譲渡所得税は将来の売却時に大きく影響する重要な税金です。本記事では、離婚という特殊な状況での中古戸建て購入時の税務知識を、国税庁の公式情報を基に詳しく解説します。

この記事で分かること:

  • 財産分与による不動産取得と通常購入の税務上の違い
  • 取得費と所有期間の引継ぎルールと将来の売却時への影響
  • 離婚後の中古戸建て購入で使える住宅ローン控除の要件
  • 共有名義解消時の譲渡所得税リスクと対策
  • 将来の売却を見据えた税務対策のポイント

(1) 譲渡所得税とは何か

譲渡所得税とは、不動産を売却した際の利益(譲渡所得)に対して課税される税金です。国税庁の定義によると、譲渡所得は「売却価格 - 取得費 - 譲渡費用」で計算されます。

譲渡所得税の計算式:

項目 内容
譲渡所得 売却価格 - 取得費 - 譲渡費用
取得費 購入価格 + 購入時諸費用 - 減価償却費
譲渡費用 仲介手数料、測量費など売却にかかった費用

所有期間が5年を超える場合は長期譲渡所得(税率20.315%)、5年以下の場合は短期譲渡所得(税率39.63%)として課税されます。

(2) 離婚時の不動産取得の特殊性

離婚時の不動産取得には、通常の売買とは異なる特殊な税務上の取り扱いがあります。国税庁の解説によれば、財産分与として不動産を取得する場合と、離婚後に新たに購入する場合で税務が大きく異なります。

取得方法による違い:

  • 財産分与による取得: 取得時に譲渡所得税は課税されませんが、元配偶者の取得費・所有期間を引き継ぎます
  • 離婚後の新規購入: 通常の不動産購入と同じ扱いで、取得費・所有期間は購入時点から計算されます

(3) 中古戸建て特有の税務ポイント

中古戸建ての場合、新築と異なり既に減価償却が進んでいる点が重要です。建物の取得費は、元の取得価格から減価償却費を差し引いた金額となります。

中古戸建ての減価償却:

木造住宅の法定耐用年数は22年ですが、中古の場合は「(法定耐用年数 - 経過年数) + 経過年数 × 20%」で計算した年数を使用します。築15年の木造住宅なら、耐用年数は約10年となります。

財産分与による不動産取得の税務上の取り扱い

(1) 財産分与と通常購入の違い

裁判所の解説によると、財産分与は離婚時に夫婦の財産を分け合う手続きです。税務上は「譲渡」として扱われますが、取得する側には特殊なルールが適用されます。

項目 財産分与による取得 通常購入
取得時の課税 原則なし(取得者側) 不動産取得税・登録免許税
取得費 元配偶者の取得費を引継ぎ 購入価格が取得費
所有期間 元配偶者の所有期間を通算 購入日から起算
住宅ローン控除 要件を満たせば適用可 要件を満たせば適用可

(2) 財産分与による取得時の課税関係

財産分与で不動産を取得する場合、取得者側には譲渡所得税は課税されません。ただし、譲渡する側(元配偶者)には、分与した不動産の時価が財産分与として適正な範囲を超える場合、超過分に譲渡所得税が課税される可能性があります。

注意すべきケース:

  • 不動産の評価額が著しく低い場合や高い場合
  • 離婚協議書に評価額の根拠が明記されていない場合
  • 分与の割合が明らかに不均衡な場合

(3) 離婚協議書における不動産評価額の重要性

離婚協議書には、財産分与する不動産の評価額を必ず明記しましょう。評価額の記載がない場合、税務署が時価での分与と認定し、想定外の課税が発生するリスクがあります。

評価額の決定方法:

  1. 不動産鑑定士による鑑定評価
  2. 複数の不動産会社による査定の平均値
  3. 固定資産税評価額を参考にした算定

取得費と所有期間の引継ぎルール

(1) 取得費の引継ぎ方法

国税庁の解説によれば、財産分与で不動産を取得した場合、取得費は元配偶者が購入した際の金額を引き継ぎます。

取得費に含まれるもの:

  • 購入時の売買代金
  • 購入時の仲介手数料
  • 登記費用・不動産取得税
  • 購入直後のリフォーム費用
  • 建物部分の減価償却費(マイナス)

例えば、元配偶者が15年前に3,000万円で購入し、購入諸費用が200万円、減価償却累計が600万円の場合、引き継ぐ取得費は約2,600万円となります。

(2) 所有期間の通算ルール

財産分与で取得した不動産の所有期間は、元配偶者が取得した日から計算されます。これにより、財産分与直後に売却する場合でも、元配偶者の所有期間が5年超であれば長期譲渡所得として低い税率が適用されます。

所有期間の判定:

  • 判定日: 売却した年の1月1日時点での所有期間で判定
  • 5年超: 長期譲渡所得(税率20.315%)
  • 5年以下: 短期譲渡所得(税率39.63%)

(3) 短期譲渡・長期譲渡の判定への影響

所有期間の引継ぎは、将来の売却時の税率に大きく影響します。元配偶者が20年前に購入した物件を財産分与で取得した場合、すぐに売却しても長期譲渡所得として低税率が適用されるメリットがあります。

税率の違いによる影響(譲渡所得1,000万円の場合):

所有期間 税率 税額
5年以下(短期) 39.63% 約396万円
5年超(長期) 20.315% 約203万円
差額 - 約193万円

離婚後の中古戸建て購入で活用できる住宅ローン控除

(1) 住宅ローン控除の基本要件

国税庁の解説によると、住宅ローン控除は年末ローン残高の0.7%を所得税から控除できる制度です。

基本要件:

  • 自己居住用の住宅であること
  • 床面積が50㎡以上(合計所得金額1,000万円以下の年は40㎡以上)
  • 借入期間が10年以上
  • 年収が2,000万円以下

(2) 離婚後の適用条件

離婚後に新たに中古戸建てを購入する場合でも、上記の基本要件を満たせば住宅ローン控除を利用できます。ただし、元配偶者との共有名義で購入した住宅でローン控除を受けていた場合、離婚後の取り扱いに注意が必要です。

離婚時の注意点:

  • 財産分与で取得した住宅は、新規購入ではないため原則として控除対象外
  • 離婚後に新たにローンを組んで購入する場合は、通常の新規購入として控除可能
  • 控除期間中に離婚した場合、居住要件を満たせば継続可能

(3) 中古戸建てならではの控除適用要件

中古戸建ての場合、新築にはない追加要件があります。

中古住宅の追加要件:

  1. 築年数要件: 1982年1月1日以降に建築された住宅(新耐震基準)
  2. 耐震基準: 上記を満たさない場合、耐震基準適合証明書等が必要
  3. 登記要件: 取得後6ヶ月以内に居住し、年末まで引き続き居住していること

築年数が古い物件でも、耐震改修を行い証明書を取得すれば控除を受けられます。

将来の売却を見据えた税務対策と注意点

(1) 売却時の譲渡所得税の計算方法

将来売却する際は、引き継いだ取得費を基に譲渡所得を計算します。

計算例(財産分与で取得したケース):

  • 売却価格: 4,500万円
  • 引継いだ取得費: 2,600万円(元配偶者の購入価格3,000万円 + 諸費用200万円 - 減価償却600万円)
  • 譲渡費用: 150万円(仲介手数料等)
  • 譲渡所得: 4,500万円 - 2,600万円 - 150万円 = 1,750万円
  • 税額: 1,750万円 × 20.315% = 約355万円(長期譲渡の場合)

(2) 3,000万円特別控除の適用可能性

居住用財産を売却する場合、一定の要件を満たせば譲渡所得から3,000万円を控除できます。これにより、上記の例では譲渡所得が0円となり、税金がかかりません。

3,000万円特別控除の主な要件:

  • 自己が居住していた住宅であること
  • 居住しなくなってから3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却
  • 売却先が配偶者や直系血族など特別な関係者でないこと

(3) 減価償却の引継ぎと将来の影響

財産分与で取得した場合、元配偶者が計算していた減価償却も引き継ぎます。築年数が古い中古戸建ての場合、既に大きく減価償却が進んでおり、取得費が減少している点に注意が必要です。

減価償却による取得費の減少例:

  • 築20年の木造住宅(建物価格1,500万円)
  • 減価償却費: 1,500万円 × 0.9 × 0.046 × 20年 = 約1,242万円
  • 残存取得費: 1,500万円 - 1,242万円 = 約258万円

建物の取得費が大きく減少すると、売却時の譲渡所得が増加し、税負担が重くなります。

共有名義の解消と譲渡所得税

(1) 共有名義解消時の持分譲渡

離婚前に夫婦で共有名義だった戸建てを、離婚時に単独名義に変更する場合、持分の譲渡が発生します。

共有名義解消の方法:

  1. 財産分与として持分譲渡: 適正な評価額での分与なら原則非課税
  2. 売買による持分譲渡: 通常の譲渡所得税が課税される
  3. 贈与による持分移転: 贈与税が課税される可能性

(2) 持分譲渡における課税リスク

財産分与として持分を譲渡する場合でも、譲渡する側には譲渡所得税が課税される可能性があります。特に、不動産の評価額が大きく上昇している場合、注意が必要です。

課税されるケース:

  • 購入価格3,000万円(各50%持分で1,500万円ずつ)
  • 時価4,000万円に上昇
  • 一方が他方の持分を財産分与で取得
  • 譲渡した側の譲渡所得: 2,000万円(時価の50%) - 1,500万円(取得費) = 500万円

適正な財産分与の範囲内であれば課税されませんが、時価との乖離が大きい場合は税務署の判断が必要です。

(3) 単独名義への移行手続きと税務

共有名義から単独名義への移行は、離婚協議書に基づく財産分与として手続きします。

手続きの流れ:

  1. 離婚協議書の作成(不動産の評価額と分与割合を明記)
  2. 財産分与を原因とする所有権移転登記
  3. 必要に応じて税務署への確定申告(譲渡所得が発生する場合)

登記時には、財産分与を原因とすることで登録免許税が軽減される場合があります(固定資産税評価額の2%)。

まとめ:離婚時の中古戸建て購入で押さえるべき税務ポイント

離婚に伴う中古戸建ての取得や購入では、通常の不動産取引とは異なる税務上の配慮が必要です。

重要ポイント:

  • 財産分与で取得する場合、取得費と所有期間は元配偶者から引き継がれます
  • 所有期間の引継ぎにより、売却時の税率が有利になる場合があります
  • 離婚後の新規購入なら、要件を満たせば住宅ローン控除が利用できます
  • 共有名義の解消時は、適正な評価額での財産分与が税務リスクを回避する鍵です
  • 離婚協議書には必ず不動産の評価額と分与割合を明記しましょう
  • 将来の売却時には3,000万円特別控除の適用可能性を検討しましょう

離婚という人生の転機で不動産を取得する際は、税理士や不動産の専門家に相談し、適切な手続きと記録の保管を心がけることが、将来の税務トラブルを防ぐ最善の方法です。

よくある質問

Q1離婚による財産分与で中古戸建てを取得した場合、譲渡所得税はかかりますか?

A1財産分与での取得時には、取得する側に譲渡所得税は原則として課税されません。ただし、将来その不動産を売却する際には、元配偶者の取得費と所有期間を引き継いで譲渡所得税を計算することになります。国税庁の解説によれば、取得費は元配偶者が購入した際の価格から減価償却費を差し引いた金額を引き継ぎます。

Q2元配偶者が20年前に購入した戸建てを財産分与で取得した場合、私の所有期間はどうなりますか?

A2所有期間は元配偶者が取得した時点から通算されます。この例では20年の所有期間を引き継ぐため、財産分与直後に売却する場合でも長期譲渡所得(税率20.315%)として低い税率が適用されます。所有期間の判定は売却した年の1月1日時点で行われ、5年超かどうかで税率が大きく変わります。

Q3離婚後に新たに中古戸建てを購入する場合、住宅ローン控除は使えますか?

A3離婚後の購入でも要件を満たせば住宅ローン控除は利用可能です。中古戸建ての場合、1982年1月1日以降に建築された住宅(新耐震基準)であること、または耐震基準適合証明書等を取得していることが追加要件となります。床面積50㎡以上、借入期間10年以上などの基本要件も満たす必要があります。

Q4共有名義の戸建てを離婚時に単独名義にする場合、税金はかかりますか?

A4財産分与として適正な評価額で持分を譲渡する場合、取得する側には原則として課税されません。ただし、譲渡する側には、不動産の時価が取得費を上回っている場合、譲渡所得税が課税される可能性があります。適正な財産分与の範囲内であれば非課税となりますが、時価との乖離が大きい場合は税務署の判断が必要です。

Q5財産分与で取得した中古戸建ての取得費はどのように計算しますか?

A5元配偶者が購入した際の取得費(購入価格+購入時諸費用)から、その後の減価償却費を差し引いた金額を引き継ぎます。例えば、15年前に3,000万円で購入し諸費用が200万円、減価償却累計が600万円の場合、引き継ぐ取得費は約2,600万円となります。元配偶者の購入資料の保管が重要です。

Q6離婚協議書に不動産の評価額を記載しないとどうなりますか?

A6評価額が明記されていない場合、税務署が時価での財産分与と認定し、想定外の譲渡所得税が課税されるリスクがあります。離婚協議書には、不動産鑑定士による評価や複数の不動産会社の査定を基にした評価額と分与割合を必ず明記しましょう。これにより税務リスクを回避できます。

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