相続新築戸建て売却の譲渡所得税|取得費加算特例ガイド

公開日: 2025/10/16

譲渡所得税の基礎知識

相続した新築戸建てを売却する場合、譲渡所得税が課される可能性があります。譲渡所得税は、不動産を売却した際の利益に対して課される税金です。

譲渡所得税のポイント

  • 譲渡所得 = 売却価格 - (取得費 + 譲渡費用)
  • 所有期間5年を境に税率が大きく変わる
  • 相続の場合、被相続人の取得日・取得費を引き継ぐ
  • 相続税の取得費加算特例で税負担を軽減できる
  • 居住用なら3,000万円特別控除を適用できる場合も

(1) 譲渡所得税の計算方法

譲渡所得税は、以下の式で計算されます(国税庁による)。

譲渡所得 = 譲渡価額 - (取得費 + 譲渡費用)

  • 譲渡価額:売却価格
  • 取得費:購入価格 + 購入時諸費用 - 減価償却費
  • 譲渡費用:仲介手数料、測量費、印紙税など売却時の諸費用

取得費に含められる費用

費用項目 含む/含まない
土地・建物の購入代金 含む
仲介手数料 含む
登録免許税・登記費用 含む
不動産取得税 含む
測量費・整地費用 含む
住宅ローン利息 含まない
修繕費 含まない(資本的支出は除く)

(2) 長期譲渡所得と短期譲渡所得の違い

所有期間によって税率が大きく変わります(国税庁による)。

所有期間 区分 所得税率 住民税率 合計
5年以下 短期 30.63% 9% 39.63%
5年超 長期 15.315% 5% 20.315%

所有期間の判定基準

所有期間は、売却した年の1月1日時点で判定します。単純に売却日から遡って5年ではないため注意が必要です。

例:

  • 2018年12月に購入、2024年1月に売却 → 2024年1月1日時点で5年超 → 長期
  • 2019年1月に購入、2024年12月に売却 → 2024年1月1日時点で5年 → 短期

相続後の新築戸建て売却と譲渡所得税

相続により取得した新築戸建てを売却する場合、通常の売却とは異なる特例が適用できます。

(1) 相続財産売却時の取得費特例

「相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」は、相続税の一部を取得費に加算できる制度です(国税庁による)。

適用要件

  • 相続により財産を取得し、相続税を納めたこと
  • 相続税の申告期限の翌日から3年以内に売却すること
  • 相続開始から約3年10か月が目安

取得費に加算できる金額

相続税額 × (売却した不動産の相続税評価額 ÷ 相続財産総額)

例:

  • 相続税額:1,000万円
  • 相続財産総額:5,000万円
  • 売却した戸建ての相続税評価額:2,000万円

取得費加算額 = 1,000万円 × (2,000万円 ÷ 5,000万円) = 400万円

この400万円を取得費に加算できるため、譲渡所得が減少し税負担が軽減されます。

(2) 3,000万円特別控除の適用条件

居住用財産を売却した場合、所有期間に関係なく譲渡益から最高3,000万円まで控除できます(国税庁による)。

要件

  • 自己の居住用財産であること
  • 売却した年の前年・前々年に同特例を使っていないこと
  • 売却先が親族など特別な関係でないこと

相続の場合の注意点

  • 被相続人が居住していただけでは適用不可
  • 相続人自身が居住していた場合は適用可能
  • 空き家の場合は「空き家特例」の検討が必要

(3) 空き家特例の適用条件

相続した空き家を売却する場合、一定要件を満たせば3,000万円特別控除を適用できます(国税庁による)。

要件

  • 昭和56年5月31日以前に建築された家屋
  • 被相続人が一人暮らしをしていた
  • 耐震基準を満たすか、解体して更地にする
  • 譲渡価格が1億円以下
  • 相続開始から3年を経過する年の12月31日までに売却

新築戸建ての場合

新築戸建ては「昭和56年5月31日以前に建築」という要件を満たさないため、空き家特例は適用できません。相続人自身が居住していない場合、3,000万円控除の適用は難しくなります。

取得費の計算方法と被相続人の所有期間引継ぎ

相続により取得した不動産の場合、取得費と所有期間の計算に特殊なルールがあります。

(1) 被相続人の取得日・取得費を引き継ぐルール

相続の場合、被相続人が取得した日と取得費をそのまま引き継ぎます。相続人が相続した日が取得日になるわけではありません。

所有期間の判定

  • 被相続人が2018年1月に新築購入
  • 2020年1月に被相続人が死亡し、相続人が相続
  • 2024年12月に相続人が売却

所有期間は、被相続人が購入した2018年1月から起算します。2024年1月1日時点で5年超のため、長期譲渡所得(税率20.315%)となります。

取得費の計算

  • 被相続人の購入価格:4,000万円(土地2,000万円、建物2,000万円)
  • 購入時諸費用:200万円
  • 減価償却費(木造・築6年):2,000万円 × 0.9 × 0.046 × 6年 = 約497万円

取得費 = 4,000万円 + 200万円 - 497万円 = 3,703万円

(2) 新築時の購入価格が取得費になる理由

相続の場合、相続税評価額ではなく、被相続人が実際に支払った購入価格が取得費となります。

例:

  • 被相続人の購入価格:4,000万円
  • 相続税評価額:3,500万円(時価より低い)
  • 売却価格:5,000万円

譲渡所得の計算では、相続税評価額3,500万円ではなく、被相続人の購入価格4,000万円(減価償却後)を取得費として使用します。

相続税の取得費加算特例の活用

相続税を納めた場合、取得費加算特例を活用することで税負担を大幅に軽減できます。

(1) 取得費加算特例の適用要件

要件

  • 相続により財産を取得し、相続税を納めたこと
  • 相続税の申告期限の翌日から3年以内に売却すること

3年以内の計算

  • 相続開始:2021年4月
  • 相続税申告期限:2022年2月(相続開始から10か月後)
  • 特例適用期限:2025年2月末(申告期限から3年後)

(2) 3年以内売却ルールと計算方法

計算例

前提:

  • 売却価格:5,000万円
  • 被相続人の取得費(減価償却後):3,500万円
  • 譲渡費用:200万円
  • 相続税額:1,000万円
  • 相続財産総額:5,000万円
  • 売却不動産の相続税評価額:2,500万円

取得費加算額

1,000万円 × (2,500万円 ÷ 5,000万円) = 500万円

譲渡所得(特例なし)

5,000万円 - (3,500万円 + 200万円) = 1,300万円

譲渡所得(特例あり)

5,000万円 - (3,500万円 + 500万円 + 200万円) = 800万円

税額比較(長期譲渡所得)

  • 特例なし:1,300万円 × 20.315% = 約264万円
  • 特例あり:800万円 × 20.315% = 約162万円
  • 節税額:約102万円

確定申告の手続き

不動産を売却した場合、譲渡益の有無にかかわらず確定申告が必要です。

(1) 必要書類と提出期限

必要書類

書類 取得先
譲渡所得の内訳書 税務署・国税庁サイト
売買契約書(売却時・購入時) 不動産会社・被相続人の保管書類
仲介手数料等の領収書 不動産会社
登記事項証明書 法務局
相続税申告書(取得費加算特例利用時) 税務署
戸籍謄本等(相続関係を証明) 市区町村役場

提出期限

売却した年の翌年2月16日から3月15日まで

(2) 相続登記義務化との関係

2024年4月から、相続不動産の登記が義務化されました。相続により不動産を取得した場合、その取得を知った日から3年以内に相続登記をしなければなりません。

売却時の注意点

  • 相続登記が完了していないと売却できない
  • 正当な理由なく登記しない場合、10万円以下の過料
  • 売却を決めたらまず相続登記を完了させる必要がある

相続新築戸建て売却の注意点

相続した新築戸建ての売却には、いくつかの注意点があります。

(1) 共同相続の場合の申告方法

複数の相続人で共同相続した場合、各相続人が自分の持分に応じた譲渡所得を申告する必要があります。

例:兄弟2人で1/2ずつ相続

  • 売却価格:5,000万円
  • 取得費(減価償却後):3,500万円
  • 譲渡費用:200万円
  • 譲渡所得:1,300万円

各相続人の譲渡所得:1,300万円 × 1/2 = 650万円

兄弟それぞれが650万円の譲渡所得を確定申告します。

取得費加算特例の適用

取得費加算特例も各相続人が納めた相続税額に応じて計算します。兄弟それぞれが個別に特例を適用できます。

(2) 税理士への相談が必要なケース

以下のケースでは、税理士への相談をおすすめします。

  • 相続税の取得費加算特例を適用する場合
  • 共同相続で持分が複雑な場合
  • 被相続人の取得費が不明な場合(概算取得費の適用検討)
  • 相続税申告と譲渡所得税申告を同時期に行う場合
  • 譲渡益が大きく、節税対策を検討したい場合

相続税と譲渡所得税の両方に精通した税理士に相談することで、トータルでの税負担を最小化できる可能性があります。

まとめ

相続した新築戸建てを売却する場合、被相続人の取得日・取得費を引き継ぐため、所有期間と税率の判定に注意が必要です。相続税の取得費加算特例を活用すれば、相続税の一部を取得費に加算でき、譲渡所得税を大幅に軽減できます。

ただし、この特例は相続税申告期限から3年以内に売却する必要があるため、売却のタイミングが重要です。また、新築戸建ての場合、空き家特例の適用は難しく、相続人自身が居住していない限り3,000万円控除の適用も困難です。

相続登記は2024年4月から義務化されており、売却前に必ず完了させる必要があります。共同相続の場合は各相続人が個別に確定申告を行うため、事前に持分や税額の計算を確認しておくことが大切です。

具体的な判断にあたっては、税理士など専門家への相談をおすすめします。

よくある質問

Q1相続した新築戸建てを売却する場合、所有期間はどこから計算しますか?

A1被相続人が取得した日(新築購入日)から計算します。相続人が相続した日ではありません。売却した年の1月1日時点で5年超なら長期譲渡所得(税率20.315%)、5年以内なら短期譲渡所得(税率39.63%)となります。

Q2相続税の取得費加算特例はいつまでに売却すれば適用されますか?

A2相続税の申告期限の翌日から3年以内に売却する必要があります。相続開始から約3年10か月が目安です。この期限を過ぎると特例は適用できなくなります。

Q3相続した新築戸建てに3,000万円特別控除は使えますか?

A3相続人自身が居住用財産として一定期間住んでいた場合は適用可能です。空き家の場合は「昭和56年5月31日以前建築」という要件があり、新築戸建ては適用できません。被相続人が居住していただけでは適用されません。

Q4共同相続した戸建てを売却する場合、誰が確定申告するのですか?

A4各相続人が自分の持分に応じた譲渡所得を申告します。全員が個別に確定申告する必要があります。取得費加算特例も各相続人が納めた相続税額に応じて適用できます。

Q5被相続人の購入価格が不明な場合はどうすればいいですか?

A5購入時の契約書等が見つからない場合、概算取得費として売却価格の5%を取得費とする方法があります。ただし、実際の取得費より不利になる可能性が高いため、まずは契約書等の書類を探すことをおすすめします。税理士に相談することも有効です。

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