相続新築戸建て購入と譲渡所得税の関係
相続資金を活用して新築戸建てを購入する場合、購入時点では譲渡所得税は発生しません。譲渡所得税は不動産を「売却」した際に課される税金であり、「購入」は課税対象外です。しかし、将来この新築戸建てを売却する際には譲渡所得税が課される可能性があるため、購入時から正確な記録を残しておくことが重要です。
相続資金での購入時のポイント
- 購入時に譲渡所得税は発生しない
- 相続税の申告が必要な場合は別途手続きが必要
- 将来の売却を見据え、取得費となる購入価格や諸費用を記録
- 住宅ローンを併用すれば住宅ローン控除を受けられる
- 購入時には不動産取得税・登録免許税などが発生
(1) 購入時には譲渡所得税は発生しない
繰り返しになりますが、新築戸建てを「購入する」行為自体に譲渡所得税はかかりません。譲渡所得税は売却時にのみ課される税金です。ただし、相続により財産を取得した場合、その財産総額によっては相続税の申告・納税が必要になります。
相続税の基礎控除は「3,000万円 + 600万円 × 法定相続人数」です。相続財産がこの金額を超える場合、相続開始から10か月以内に申告・納税が必要です(国税庁による)。
(2) 将来の売却に備えた取得費の記録
将来この新築戸建てを売却する際、譲渡所得の計算に「取得費」が必要になります。取得費とは、購入価格に購入時の諸費用を加えた金額です。
取得費に含められる費用
- 土地・建物の購入代金
- 仲介手数料
- 登録免許税・登記費用
- 不動産取得税
- 印紙税
- 測量費
- 整地・造成費用
これらの領収書や契約書は、将来の売却時まで保管しておく必要があります。
購入時にかかる税金
新築戸建て購入時には、譲渡所得税とは別に以下の税金が発生します。
(1) 不動産取得税
不動産を取得した際に課される都道府県税です。標準税率は4%ですが、新築住宅には軽減措置があります。
軽減措置(東京都主税局による)
要件 | 軽減内容 |
---|---|
床面積50㎡以上240㎡以下 | 建物評価額から1,200万円控除 |
土地 | (1) 45,000円、または (2) (土地1㎡あたりの価格 × 床面積の2倍(200㎡上限) × 3%)のいずれか高い方を控除 |
(2) 登録免許税
不動産の所有権保存登記・抵当権設定登記にかかる国税です。
登記種類 | 通常税率 | 軽減税率(住宅用家屋) |
---|---|---|
所有権保存登記 | 0.4% | 0.15% |
所有権移転登記(土地) | 2.0% | 1.5% |
抵当権設定登記 | 0.4% | 0.1% |
軽減措置の適用には、床面積50㎡以上などの要件があります。
(3) 印紙税
売買契約書や住宅ローン契約書に貼付する印紙代です。契約金額により変動します。
契約金額 | 印紙税額(軽減後) |
---|---|
1,000万円超5,000万円以下 | 10,000円 |
5,000万円超1億円以下 | 30,000円 |
相続・贈与の税務基礎知識
相続資金で住宅を購入する場合、相続税や贈与税の知識が必要です。
(1) 相続税の基礎控除
相続税は、相続財産の総額が基礎控除を超える場合に課税されます。
基礎控除額 = 3,000万円 + 600万円 × 法定相続人数
例:
- 配偶者と子2人(法定相続人3人):3,000万円 + 600万円 × 3 = 4,800万円
- 相続財産が4,800万円以下なら相続税は非課税
(2) 贈与税との違い
親や祖父母から住宅資金の援助を受ける場合、贈与税が課される可能性があります。ただし、「住宅取得等資金の贈与税非課税措置」を使えば、一定額まで非課税で贈与を受けられます。
住宅取得等資金の贈与税非課税措置(国税庁による)
住宅区分 | 非課税限度額 |
---|---|
省エネ等住宅 | 1,000万円 |
その他の住宅 | 500万円 |
この措置は、父母・祖父母からの贈与に限られます。配偶者の親からの贈与は対象外です。
(3) 申告期限
- 相続税:相続開始を知った日の翌日から10か月以内
- 贈与税:贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日まで
期限を過ぎると加算税・延滞税が課されるため、注意が必要です。
相続資金を活用した住宅ローン控除
相続資金で住宅を購入する場合でも、住宅ローンを併用すれば住宅ローン控除を受けられます。
(1) 適用要件
住宅ローン控除は、年末ローン残高の0.7%を所得税(控除しきれない場合は住民税)から控除する制度です(国税庁による)。
主な要件
- 床面積50㎡以上(合計所得1,000万円以下なら40㎡以上)
- 引き渡しから6か月以内に居住開始
- 合計所得2,000万円以下
- 住宅ローンの返済期間が10年以上
控除額
住宅区分 | 借入限度額 | 控除期間 | 最大控除額 |
---|---|---|---|
認定住宅 | 5,000万円 | 13年間 | 455万円 |
ZEH水準省エネ住宅 | 4,500万円 | 13年間 | 409.5万円 |
省エネ基準適合住宅 | 4,000万円 | 13年間 | 364万円 |
その他の住宅 | 3,000万円 | 13年間 | 273万円 |
(2) 相続資金と住宅ローンの併用
相続で5,000万円を取得し、新築戸建てを6,000万円で購入する場合、以下のような選択肢があります。
パターン1:全額現金購入
- 相続資金5,000万円 + 自己資金1,000万円
- 住宅ローン控除は受けられない
- ローン利息の負担なし
パターン2:住宅ローン併用
- 相続資金2,000万円 + 住宅ローン4,000万円
- 住宅ローン控除を13年間受けられる(最大364万円)
- ローン利息の負担あり
どちらが有利かは、ローン金利・控除額・資金計画などを総合的に判断する必要があります。
将来の売却時の譲渡所得税
将来この新築戸建てを売却する際、譲渡所得税が課される可能性があります。
(1) 取得費の計算
譲渡所得は、以下の式で計算されます。
譲渡所得 = 譲渡価額 - (取得費 + 譲渡費用)
取得費は、購入価格に購入時の諸費用を加えた金額です。ただし、建物部分については減価償却費相当額を差し引く必要があります。
減価償却費の計算(木造住宅の場合)
- 耐用年数:22年
- 償却率:0.046(定額法)
- 減価償却費 = 建物取得価額 × 0.9 × 償却率 × 経過年数
例:
- 建物取得価額3,000万円、10年後に売却
- 減価償却費 = 3,000万円 × 0.9 × 0.046 × 10年 = 1,242万円
- 建物の取得費 = 3,000万円 - 1,242万円 = 1,758万円
(2) 3,000万円控除の適用
居住用財産を売却した場合、所有期間に関係なく譲渡益から最高3,000万円まで控除できます(国税庁による)。
要件
- 自己の居住用財産であること
- 売却した年の前年・前々年に同特例を使っていないこと
- 売却先が親族など特別な関係でないこと
譲渡益が3,000万円以下なら、この特例で税額をゼロにできます。
税率
3,000万円控除後も譲渡益が残る場合、以下の税率で課税されます。
所有期間 | 所得税率 | 住民税率 | 合計 |
---|---|---|---|
5年以下(短期) | 30.63% | 9% | 39.63% |
5年超(長期) | 15.315% | 5% | 20.315% |
所有期間は、売却した年の1月1日時点で判定します。
相続登記義務化と税務戦略
2024年4月から、相続不動産の登記が義務化されました。相続により不動産を取得した場合、その取得を知った日から3年以内に相続登記をしなければなりません(法務局による)。
義務化のポイント
- 相続開始を知った日から3年以内に登記が必要
- 正当な理由なく登記しない場合、10万円以下の過料
- 2024年4月1日より前の相続も対象(猶予期間あり)
相続不動産を売却して新築戸建てを購入する場合、以下の流れになります。
- 相続登記(被相続人→相続人)
- 相続不動産の売却
- 売却代金で新築戸建てを購入
この場合、相続不動産を相続税申告期限(10か月)から3年以内に売却すると、「相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」を使えます。この特例では、相続税額の一部を取得費に加算できるため、譲渡所得税を軽減できます(国税庁による)。
まとめ
相続資金で新築戸建てを購入する場合、購入自体には譲渡所得税はかかりませんが、相続税の申告が必要なケースがあります。また、将来の売却を見据えて、購入時の価格や諸費用を正確に記録しておくことが重要です。
住宅ローンを併用すれば住宅ローン控除を受けられますが、全額現金購入との比較検討が必要です。また、相続登記は2024年4月から義務化されており、相続不動産を売却して新築戸建てを購入する場合は、取得費の特例など税務上の優遇措置も活用できます。
具体的な判断にあたっては、税理士など専門家への相談をおすすめします。