離婚時の新築戸建て売却と譲渡所得税とは
離婚に伴い新築戸建てを売却する際、譲渡所得税の取り扱いが通常の売却とは異なる場合があります。特に財産分与として配偶者に不動産を譲渡する場合と、第三者に売却して現金を分ける場合では、税制が大きく異なります。
この記事でわかること
- 離婚時の新築戸建て売却における譲渡所得税の基本と財産分与との違い
- 譲渡所得の計算方法(取得費・譲渡費用・減価償却)
- 財産分与による譲渡と売却の税制の違いとどちらが有利か
- 居住用財産の3,000万円控除と共有名義の場合の控除額
- 確定申告の手続きと必要書類
離婚時の新築戸建て売却と譲渡所得税の基本
譲渡所得税とは
譲渡所得税は、不動産を売却した際の利益(譲渡所得)に対して課される税金です。譲渡所得は以下の式で計算されます(国税庁:譲渡所得の計算のしかた)。
譲渡所得 = 売却価格 - (取得費 + 譲渡費用)
離婚時の新築戸建て売却では、以下の2つのパターンがあります。
パターン1:第三者に売却して現金を分ける
- 通常の売却と同じ税制が適用される
- 譲渡所得税が発生(特例により軽減可能)
パターン2:財産分与として配偶者に譲渡
- 受け取る側は原則非課税
- 渡す側は譲渡所得税が発生する場合あり
財産分与と売却の違い
離婚時の不動産処理には、財産分与と売却の2つの方法があり、税制が異なります。
項目 | 財産分与 | 第三者への売却 |
---|---|---|
受け取る側の課税 | 原則非課税 | 関係なし |
渡す側の課税 | 譲渡所得税あり | 譲渡所得税あり |
3,000万円控除 | 適用可能 | 適用可能 |
売却価格 | 時価(市場価格) | 実際の売却価格 |
手続き | 登記のみ | 買主との売買契約 |
譲渡所得の計算方法
取得費・譲渡費用
譲渡所得を計算する際、取得費と譲渡費用を正確に把握することが重要です。
取得費に含まれるもの:
- 土地・建物の購入代金
- 建築請負代金
- 仲介手数料
- 登記費用(登録免許税、司法書士報酬)
- 不動産取得税
- 印紙税
- 造成費用(土地の整地等)
- リフォーム費用(価値を高める改良)
譲渡費用に含まれるもの:
- 売却時の仲介手数料
- 売買契約書の印紙税
- 測量費
- 売却のための広告費
- 立退料(賃貸していた場合)
建物の減価償却
新築戸建ての建物部分は、売却時に減価償却を考慮する必要があります。
減価償却費の計算式(居住用):
減価償却費 = 建物の取得価額 × 0.9 × 償却率 × 経過年数
木造住宅の場合:
- 耐用年数:33年
- 償却率:0.031
計算例:
- 建物取得価額:2,500万円
- 所有期間:5年
- 減価償却費:2,500万円 × 0.9 × 0.031 × 5年 = 348.75万円
- 売却時の建物取得費:2,500万円 - 348.75万円 = 2,151.25万円
短期・長期譲渡所得の区分
譲渡所得税の税率は、所有期間によって異なります。
区分 | 所有期間 | 税率 |
---|---|---|
短期譲渡所得 | 5年以内 | 39.63%(所得税30.63% + 住民税9%) |
長期譲渡所得 | 5年超 | 20.315%(所得税15.315% + 住民税5%) |
所有期間の判定:
- 売却した年の1月1日時点で判定
- 新築戸建ての場合、建築完了・引渡日が起算日
財産分与と譲渡所得税
財産分与による譲渡は原則非課税
離婚時の財産分与として不動産を配偶者に譲渡する場合、以下の税制が適用されます(国税庁:財産分与と税金)。
受け取る側:
- 贈与税:原則非課税(民法上の財産分与は贈与に当たらない)
- ただし、分与額が過大な場合や贈与税・相続税の回避目的と認められる場合は課税される可能性あり
渡す側:
- 譲渡所得税:原則課税
- 財産分与時の時価(市場価格)と取得費の差額に対して課税
- 居住用財産の3,000万円控除が適用できる場合あり
注意点:
- 財産分与として渡す場合でも、渡す側には譲渡所得税が発生する
- 時価より著しく低い価格で譲渡すると、贈与とみなされる可能性
売却して現金を分ける場合の課税
新築戸建てを第三者に売却し、売却代金を分ける場合、通常の売却と同じ税制が適用されます。
計算例:
- 売却価格:4,500万円
- 土地取得費:2,000万円
- 建物取得費(減価償却後):2,151万円
- 購入時諸費用:200万円
- 譲渡費用:150万円
譲渡所得:
- 4,500万円 - (2,000万円 + 2,151万円 + 200万円 + 150万円)= -1万円
- この場合、譲渡所得がマイナスのため課税なし
どちらが有利か
財産分与と売却のどちらが有利かは、状況によって異なります。
財産分与が有利なケース:
- 一方が住み続けたい場合
- 売却費用(仲介手数料等)を節約したい
- 受け取る側の資金負担がない(ローンを引き継ぐ場合を除く)
売却が有利なケース:
- 両者とも住み続ける予定がない
- ローン残債が多く、一方では返済できない
- 現金で公平に分けたい
利用可能な特例(3,000万円控除等)
居住用財産の3,000万円控除
離婚時の新築戸建て売却でも、居住用財産として以下の要件を満たせば3,000万円控除を適用できます(国税庁:居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除)。
主な適用要件:
- 自己が居住していた住宅であること
- 住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却
- 売却先が配偶者や直系血族など特別な関係者でないこと(離婚前の配偶者への財産分与は対象外、離婚後は可)
- 前年・前々年にこの特例を受けていないこと
適用例:
- 譲渡所得:1,000万円
- 3,000万円控除適用後:1,000万円 - 3,000万円 = マイナスのため課税なし
軽減税率の特例
所有期間が10年を超える居住用不動産を売却した場合、3,000万円控除と併用できる軽減税率の特例があります。
軽減税率:
- 譲渡所得6,000万円以下の部分:14.21%(所得税10.21% + 住民税4%)
- 譲渡所得6,000万円超の部分:20.315%(通常の長期譲渡所得の税率)
適用要件:
- 所有期間10年超(売却年の1月1日時点)
- 居住用財産であること
- 3,000万円控除と併用可能
共有名義の場合の控除
夫婦共有名義の新築戸建てを売却する場合、各共有者が3,000万円控除を適用できます(国税庁:共有財産の譲渡)。
計算例(共有持分50%ずつ):
- 売却価格:5,000万円
- 取得費・譲渡費用:合計3,000万円
- 譲渡所得:2,000万円
各自の譲渡所得:
- 夫:2,000万円 × 50% = 1,000万円
- 妻:2,000万円 × 50% = 1,000万円
3,000万円控除適用後:
- 夫:1,000万円 - 3,000万円 = マイナスのため課税なし
- 妻:1,000万円 - 3,000万円 = マイナスのため課税なし
重要:
- 共有名義の場合、各自が要件を満たせば各自3,000万円控除を適用可能
- 2人なら合計6,000万円まで控除できる
確定申告の手続き
申告期限と提出方法
新築戸建てを売却した場合、譲渡所得の確定申告が必要です(国税庁:確定申告の手続き)。申告期限は、譲渡した年の翌年2月16日から3月15日までです。
申告方法には以下があります。
- e-Tax(電子申告)
- 税務署へ直接提出
- 郵送による提出
**重要:**期限内に申告しないと、3,000万円控除などの特例が適用できなくなります。
必要書類
確定申告時に必要な書類は以下の通りです。
基本書類:
- 確定申告書B(第一表・第二表)
- 確定申告書第三表(分離課税用)
- 譲渡所得の内訳書
- 売買契約書のコピー(売却時・購入時)
- 領収書のコピー(仲介手数料、登記費用等)
3,000万円控除を適用する場合:
- 居住用財産を譲渡した場合の特例適用申告書
- 住民票の写し
離婚関連書類(税務署から求められる可能性あり):
- 離婚届受理証明書
- 財産分与協議書(財産分与の場合)
- 登記事項証明書(財産分与による名義変更の場合)
離婚時の売却タイミングと税務戦略
離婚時の新築戸建て売却では、タイミングと方法によって税負担が大きく変わります。
戦略1:離婚成立後に売却する
- 離婚前の配偶者への財産分与は、売却先が特別な関係者のため3,000万円控除が使えない
- 離婚成立後なら元配偶者への売却でも控除適用可能
戦略2:所有期間を確認する
- 5年超なら長期譲渡所得(税率20.315%)
- 10年超なら軽減税率(14.21%)+3,000万円控除併用可能
戦略3:共有名義なら各自控除を活用
- 共有名義の場合、各自3,000万円控除を適用可能
- 2人で合計6,000万円まで控除できる
戦略4:財産分与と売却を比較する
- 一方が住み続けたいなら財産分与
- 両者とも住まない・現金で分けたいなら売却
- ローン残債が多い場合は売却が現実的
戦略5:住まなくなってから3年以内に売却
- 離婚後も元配偶者が住み続けている場合、自分が住まなくなってから3年後の12月31日までなら3,000万円控除適用可能
まとめ
離婚時の新築戸建て売却では、財産分与と売却の違いや特例の活用が重要です。
- 譲渡所得税は売却益に対して課される(取得費・譲渡費用を差し引いた金額)
- 財産分与として渡す場合、受け取る側は原則非課税、渡す側は譲渡所得税が発生
- 第三者に売却する場合、通常の売却と同じ税制が適用される
- 建物は減価償却の対象(木造住宅は耐用年数33年、償却率0.031)
- 居住用財産の3,000万円控除を適用できる(要件あり)
- 共有名義の場合、各自3,000万円控除を適用可能(合計6,000万円)
- 所有期間10年超なら軽減税率(14.21%)を併用可能
- 確定申告は売却翌年の2月16日~3月15日(期限厳守)
- 離婚成立後の売却なら元配偶者への売却でも控除適用可能
離婚は感情的にも経済的にも大きな負担となります。税理士や不動産の専門家、弁護士に相談しながら、最適な方法を選択することをおすすめします。