離婚時の新築戸建て購入と譲渡所得税の関係
離婚に伴い新築戸建てを購入する際、財産分与で得た資金を活用するケースや、元配偶者との共有財産を清算して新たに単独で購入するケースがあります。このような状況では、購入時の税務処理と将来の売却時の譲渡所得税について正しく理解することが重要です。
この記事でわかること
- 離婚時の新築戸建て購入と譲渡所得税の関係(購入時は非課税)
- 財産分与で不動産を受け取る場合と購入する場合の税制の違い
- 購入時にかかる税金(不動産取得税・登録免許税・印紙税)
- 単独名義での住宅ローン控除の適用要件
- 将来の売却時の譲渡所得税計算と3,000万円控除
離婚時の新築戸建て購入と譲渡所得税の関係
購入時には譲渡所得税は発生しない
譲渡所得税は、不動産を売却した際の利益(譲渡所得)に対して課される税金です。新築戸建てを購入する時点では売却が発生しないため、譲渡所得税は課されません。これは、通常の購入でも離婚後の購入でも同じです。
譲渡所得は以下の式で計算されます。
譲渡所得 = 売却価格 - (取得費 + 譲渡費用)
財産分与による取得との違い
離婚時には、以下の2つの方法で住居を取得する可能性があります。
方法1:財産分与で不動産を受け取る
- 元配偶者の持分を譲り受ける
- 受け取る側は原則として贈与税・譲渡所得税が非課税(国税庁:財産分与と税金)
- ただし、登録免許税(固定資産税評価額の2%)が発生
方法2:財産分与の資金で新築戸建てを購入
- 新たに単独名義で購入
- 不動産取得税・登録免許税などが通常通り発生
- 住宅ローン控除が適用可能
項目 | 財産分与で受け取る | 新たに購入 |
---|---|---|
贈与税 | 原則非課税 | 関係なし |
不動産取得税 | 非課税 | 課税(軽減措置あり) |
登録免許税 | 2%(財産分与) | 0.15%(所有権保存登記、軽減税率) |
住宅ローン控除 | 条件により適用不可 | 適用可能 |
購入時にかかる税金
不動産取得税
不動産取得税は、不動産を取得した際に一度だけ課される地方税です(総務省:不動産取得税)。
標準税率:
- 土地・建物:固定資産税評価額の3%(2027年3月31日まで)
新築住宅の軽減措置:
- 建物の課税標準額から1,200万円控除(床面積50㎡以上240㎡以下)
- 長期優良住宅は1,300万円控除
登録免許税
登録免許税は、不動産の登記手続き時に課される国税です(国税庁:登録免許税)。
新築戸建ての登記:
- 所有権保存登記:標準税率0.4% → 軽減税率0.15%(2027年3月31日まで)
- 抵当権設定登記:標準税率0.4% → 軽減税率0.1%
印紙税
印紙税は、売買契約書やローン契約書に貼付する税金です(国税庁:印紙税)。
契約金額別の印紙税(軽減税率、2027年3月31日まで):
- 1,000万円超~5,000万円以下:1万円
- 5,000万円超~1億円以下:3万円
財産分与と税務
財産分与で不動産を受け取る場合の課税
離婚時の財産分与で不動産を受け取る場合、原則として以下の税制が適用されます。
受け取る側:
- 贈与税:原則非課税(民法上の財産分与は贈与に当たらない)
- ただし、分与額が過大な場合や贈与税・相続税の回避目的と認められる場合は課税される可能性あり
渡す側:
- 譲渡所得税:原則課税
- 分与時の時価と取得費の差額に対して課税
- 居住用財産の3,000万円控除が適用できる場合あり
購入との税制の違い
離婚後に新たに新築戸建てを購入する場合と、財産分与で不動産を受け取る場合では、以下のような違いがあります。
新規購入のメリット:
- 住宅ローン控除を最大限活用できる(最大455万円、認定住宅の場合)
- 自分の希望に合った物件を選択できる
- 将来の売却時の取得費が明確
財産分与のメリット:
- 不動産取得税が非課税
- 新たな購入資金が不要(住宅ローンを組まない場合)
住宅ローン控除の適用
単独名義での適用要件
離婚後に新築戸建てを単独名義で購入する場合、以下の要件を満たせば住宅ローン控除を適用できます(国税庁:住宅借入金等特別控除)。
主な要件:
- 新築または取得から6か月以内に居住を開始すること
- 床面積が50㎡以上であること(合計所得金額1,000万円以下の場合は40㎡以上)
- ローンの返済期間が10年以上であること
- 合計所得金額が2,000万円以下であること
注意点:
- 離婚後の単独年収での審査となり、借入可能額が減少する可能性
- 養育費・慰謝料の支払いがある場合、返済能力の審査に影響
控除額:
- 一般住宅:年末ローン残高3,000万円を上限に0.7%を13年間控除(最大273万円)
- 認定住宅:最大455万円(長期優良住宅・低炭素住宅の場合)
財産分与後の新規購入での控除
財産分与で元の共有持分を清算し、新たに新築戸建てを購入する場合、住宅ローン控除は通常通り適用できます。ただし、以下の点に注意が必要です。
注意点:
- 元の住宅で住宅ローン控除を受けていた場合、新居での控除開始年度の制限はない
- ただし、元の住宅を売却して3,000万円控除を使った場合、売却年の前後2年間(計5年間)は新居で住宅ローン控除が使えない
将来の売却時の譲渡所得税
取得費の計算
離婚後に購入した新築戸建てを将来売却する際、取得費は以下のように計算されます。
取得費に含まれるもの:
- 土地・建物の購入代金
- 仲介手数料
- 登記費用(登録免許税、司法書士報酬)
- 不動産取得税
- 印紙税
- リフォーム費用(価値を高める改良)
建物は減価償却の対象:
- 将来売却時には、建物の取得費から減価償却費を差し引く
- 木造住宅の場合、耐用年数33年、償却率0.031
3,000万円控除の適用要件
離婚後に購入した戸建てを将来売却する際、居住用財産として以下の要件を満たせば3,000万円控除を適用できます。
主な要件:
- 自己が居住していた住宅であること
- 住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却
- 売却先が配偶者や直系血族など特別な関係者でないこと(離婚後の元配偶者は該当しない)
- 前年・前々年にこの特例を受けていないこと
適用例:
- 売却価格:4,000万円
- 取得費:3,000万円
- 譲渡費用:150万円
- 譲渡所得:4,000万円 - (3,000万円 + 150万円)= 850万円
- 3,000万円控除適用後:850万円 - 3,000万円 = マイナスのため課税なし
離婚後の新築購入における税務戦略
離婚後に新築戸建てを購入する際の税務戦略を以下にまとめます。
戦略1:財産分与と新規購入の比較検討
- 財産分与:不動産取得税非課税、住宅ローン控除が使えない場合あり
- 新規購入:住宅ローン控除を最大限活用(最大455万円)、自由な物件選択
戦略2:認定住宅の選択
- 長期優良住宅・低炭素住宅を選択すれば住宅ローン控除の借入限度額が増加
- 一般住宅3,000万円 → 認定住宅5,000万円
戦略3:親族からの資金援助活用
- 贈与税の非課税措置を活用(省エネ住宅なら1,000万円まで非課税)
- 自己資金を増やすことでローン利息負担を軽減
戦略4:将来を見据えた領収書保管
- 取得費を証明するための領収書を必ず保管
- 紛失すると売却価格の5%しか取得費として認められない
戦略5:住宅ローン控除と3,000万円控除の関係
- 元の住宅を売却して3,000万円控除を使う場合、前後2年間(計5年間)新居で住宅ローン控除が使えない
- 売却タイミングを調整することで両方の控除を活用
まとめ
離婚時の新築戸建て購入では、財産分与との違いや単独名義での税制優遇を理解することが重要です。
- 購入時には譲渡所得税は発生しない(売却時に初めて課される)
- 財産分与で受け取る場合は原則非課税だが、住宅ローン控除が使えない場合あり
- 新規購入では住宅ローン控除を最大限活用(認定住宅なら最大455万円)
- 単独名義での審査となり、借入可能額が減少する可能性
- 購入時にかかる税金:不動産取得税・登録免許税・印紙税(軽減措置あり)
- 将来の売却時には3,000万円控除を適用可能(居住用財産の場合)
- 取得費を証明するための領収書を必ず保管
- 元の住宅で3,000万円控除を使うと、新居で5年間住宅ローン控除が使えない
離婚後の住宅購入は、感情的にも経済的にも大きな決断です。税理士や不動産の専門家、ファイナンシャルプランナーに相談しながら、最適な選択をすることをおすすめします。