新築戸建て購入と譲渡所得税の関係とは
新築戸建てを購入する際、多くの方が住宅ローン控除や購入時の諸費用に注目しますが、将来の売却時に課される「譲渡所得税」についても理解しておくことが重要です。購入時点では譲渡所得税は発生しませんが、適切な記録を残すことで将来の税負担を軽減できます。
この記事でわかること
- 新築戸建て購入時の譲渡所得税との関係と購入時に発生しない理由
- 購入時にかかる税金(不動産取得税・登録免許税・印紙税)と軽減措置
- 住宅ローン控除と認定住宅による控除額の違い
- 将来の売却時の譲渡所得税計算に必要な取得費の範囲
- 土地と建物の税制の違い(減価償却の影響)
新築戸建て購入と譲渡所得税の関係
購入時には譲渡所得税は発生しない
譲渡所得税は、不動産を売却した際の利益(譲渡所得)に対して課される税金です(国税庁:譲渡所得の計算)。新築戸建てを購入する時点では売却が発生しないため、譲渡所得税は課されません。
譲渡所得の計算式:
譲渡所得 = 売却価格 - (取得費 + 譲渡費用)
将来の売却を見据えた取得費の記録
将来、戸建てを売却する際には、購入時の費用(取得費)を証明する必要があります。取得費が高いほど譲渡所得が少なくなり、税負担も軽減されます。そのため、以下の書類を必ず保管しておきましょう。
保管が必要な書類:
- 売買契約書
- 建築請負契約書
- 仲介手数料の領収書
- 登記費用の領収書
- 不動産取得税の納税証明書
- リフォーム費用の領収書(将来実施した場合)
購入時にかかる税金(不動産取得税・登録免許税・印紙税)
不動産取得税の軽減措置
不動産取得税は、不動産を取得した際に一度だけ課される地方税です(総務省:不動産取得税)。
標準税率:
- 土地・建物:固定資産税評価額の3%(2027年3月31日まで)
新築住宅の軽減措置:
- 建物の課税標準額から1,200万円控除(床面積50㎡以上240㎡以下)
- 長期優良住宅は1,300万円控除
- 土地も一定要件で軽減あり
計算例(一般住宅):
- 建物の固定資産税評価額:1,500万円
- 軽減後:(1,500万円 - 1,200万円)× 3% = 9万円
登録免許税(保存登記・抵当権設定登記)
登録免許税は、不動産の登記手続き時に課される国税です(国税庁:登録免許税)。
新築戸建ての登記:
- 所有権保存登記:標準税率0.4% → 軽減税率0.15%(2027年3月31日まで)
- 抵当権設定登記:標準税率0.4% → 軽減税率0.1%
計算例:
- 建物の価格:2,500万円
- 所有権保存登記:2,500万円 × 0.15% = 37,500円
- ローン借入額:2,000万円
- 抵当権設定登記:2,000万円 × 0.1% = 20,000円
印紙税
印紙税は、売買契約書やローン契約書に貼付する税金です(国税庁:印紙税)。
契約金額別の印紙税(軽減税率、2027年3月31日まで):
- 1,000万円超~5,000万円以下:1万円
- 5,000万円超~1億円以下:3万円
住宅ローン控除と税制優遇措置
住宅ローン控除の適用要件
住宅ローン控除は、住宅ローンを組んで住宅を取得した場合、年末ローン残高の0.7%を所得税から控除できる制度です(国税庁:住宅借入金等特別控除)。
主な要件:
- 新築または取得から6か月以内に居住を開始すること
- 床面積が50㎡以上であること(合計所得金額1,000万円以下の場合は40㎡以上)
- ローンの返済期間が10年以上であること
- 合計所得金額が2,000万円以下であること
控除額:
- 一般住宅:年末ローン残高3,000万円を上限に0.7%を13年間控除
- 最大控除額:年間21万円 × 13年 = 273万円
認定住宅による控除額の違い
認定住宅(長期優良住宅・低炭素住宅・ZEH水準省エネ住宅)を取得した場合、控除額が増加します。
住宅の種類 | 借入限度額 | 最大控除額(13年間) |
---|---|---|
一般住宅 | 3,000万円 | 273万円 |
ZEH水準省エネ住宅 | 4,500万円 | 409.5万円 |
長期優良住宅・低炭素住宅 | 5,000万円 | 455万円 |
贈与税の非課税措置
直系尊属(父母・祖父母)から住宅取得資金の贈与を受けた場合、一定額まで贈与税が非課税になります(国税庁:住宅取得等資金の贈与税の非課税)。
非課税枠(2024年1月1日以降):
- 一般住宅:500万円
- 省エネ等住宅:1,000万円
主な要件:
- 受贈者が18歳以上であること
- 贈与者が直系尊属であること
- 贈与を受けた年の翌年3月15日までに新築し居住すること
将来の売却時の譲渡所得税(取得費の範囲)
取得費に含まれる費用
将来の売却時に譲渡所得を計算する際、取得費として認められる費用には以下が含まれます。
取得費に含まれるもの:
- 土地・建物の購入代金
- 建築請負代金
- 仲介手数料
- 登記費用(登録免許税、司法書士報酬)
- 不動産取得税
- 印紙税
- 測量費
- 造成費用(土地の整地等)
- リフォーム費用(価値を高める改良)
取得費に含まれないもの:
- 住宅ローンの利息
- 固定資産税・都市計画税
- 火災保険料
- 修繕費(価値を維持するだけの費用)
購入時の領収書等の保管
取得費を証明するには、購入時の領収書や契約書が必要です。紛失すると、取得費を実額で証明できず、「売却価格の5%」を取得費とみなされる場合があり、税負担が大幅に増加します。
保管のポイント:
- 原本をファイリングして保管
- スキャンしてデジタルデータとしても保存
- 住宅購入専用のファイルを作成
- 最低でも売却後7年間は保管
長期・短期譲渡所得の区分
売却時の税率は、所有期間によって異なります。
区分 | 所有期間 | 税率 |
---|---|---|
短期譲渡所得 | 5年以内 | 39.63%(所得税30.63% + 住民税9%) |
長期譲渡所得 | 5年超 | 20.315%(所得税15.315% + 住民税5%) |
所有期間の判定:
- 売却した年の1月1日時点で判定
- 例:2020年4月取得 → 2026年1月以降の売却で長期譲渡所得
土地と建物の税制の違い(減価償却)
建物は減価償却の対象
将来売却する際、建物部分は減価償却を考慮する必要があります。居住用不動産の場合、非事業用の減価償却費を計算します。
減価償却費の計算式:
減価償却費 = 建物の取得価額 × 0.9 × 償却率 × 経過年数
木造住宅の場合:
- 耐用年数:33年
- 償却率:0.031
計算例:
- 建物取得価額:2,000万円
- 所有期間:10年
- 減価償却費:2,000万円 × 0.9 × 0.031 × 10年 = 558万円
- 売却時の建物取得費:2,000万円 - 558万円 = 1,442万円
土地は減価償却対象外
土地は経年劣化しないため、減価償却の対象外です。購入時の価格がそのまま取得費となります。
将来の売却時の取得費計算への影響
計算例(購入から10年後に売却):
- 土地購入価格:2,000万円
- 建物購入価格:2,000万円
- 購入時諸費用:200万円
売却時の取得費:
- 土地:2,000万円(そのまま)
- 建物:2,000万円 - 558万円 = 1,442万円
- 諸費用:200万円
- 合計:3,642万円
購入時から将来を見据えた税務戦略
新築戸建て購入時から将来の税務を見据えた戦略を立てることで、税負担を最小化できます。
戦略1:認定住宅を選択する
- 住宅ローン控除の借入限度額が増加(一般3,000万円 → 長期優良5,000万円)
- 不動産取得税の軽減額も増加(1,200万円 → 1,300万円)
戦略2:領収書を確実に保管する
- 取得費を実額で証明できれば、将来の税負担を大幅に軽減
- 紛失すると売却価格の5%しか取得費として認められない
戦略3:長期保有を前提とする
- 5年超保有で長期譲渡所得(税率20.315%)
- 10年超保有で軽減税率(14.21%)+3,000万円控除併用可能
戦略4:親族からの資金援助を活用する
- 贈与税の非課税措置を活用(省エネ住宅なら1,000万円まで非課税)
- 自己資金を増やすことでローン利息負担を軽減
戦略5:リフォーム費用も記録する
- 価値を高めるリフォームは取得費に加算可能
- 領収書を保管し、工事内容を明確にしておく
まとめ
新築戸建て購入時には譲渡所得税は発生しませんが、将来の売却を見据えた適切な記録と戦略が重要です。
- 購入時には譲渡所得税は発生しない(売却時に初めて課される)
- 購入時にかかる税金:不動産取得税・登録免許税・印紙税(軽減措置あり)
- 住宅ローン控除:年末ローン残高の0.7%を最大13年間控除
- 認定住宅なら控除額増加(一般273万円 → 長期優良455万円)
- 取得費に含まれる費用の領収書を必ず保管
- 建物は減価償却の対象、土地は対象外
- 所有期間5年超で税率が約半分(39.63% → 20.315%)
- 贈与税の非課税措置を活用(省エネ住宅なら1,000万円まで)
購入時から適切な記録を残し、税制優遇を最大限活用することで、将来の税負担を大幅に軽減できます。不明点があれば、税理士や不動産の専門家に相談することをおすすめします。